エネルギーを自給し、安全で、孫の世代まで住める家を広める飯村真樹(まさき)さんに話を聞いた。
地震のときに逃げ込める、安全で壊れない家
四季折々の豊かな自然が楽しめる一方、地震などの自然災害からも逃れられない日本。大きな災害に見舞われ、避難所や仮設住宅暮らしを強いられることも他人事ではない。
しかし、例えば地震→避難所・仮設住宅ではなく、地震だからこそ「安全な家に逃げ込み、自身と大切な人の命を守る」「電気、水道などのインフラが止まっても、家で自給できる電気、水で普段通りの暮らしを維持し、周辺に困っている家があれば助ける」という未来になればどうだろう?
そんな未来づくりを進めているのが、茨城県水戸市に本社を置く建築会社「ファーストステージ」代表取締役の飯村真樹さんだ。
「10年前に東日本大震災があり、電気や水道も含め、全てが止まるという経験を私たちはしました。より安全で、壊れない、震度7の地震が何度あっても安心な家を造らなければいけない。そう考えて、より厳格で安全性が高い構造計算となる許容応力度計算を木造2階建ての建物にも取り入れ、耐震等級3の家を手掛けるようになりました」
その結果が「地震のときに逃げ込める家」だ。飯村さんはさらに続ける。
「ただ、単に頑丈な家というだけでなく、快適に住むためにはデザインも大切です。そして、断熱性能を高め、屋根には太陽光発電を備えて光熱費もかからない家。デザインも燃費もよく、健康的に安心して住める家となると、それは一世代で消費する家ではなく、三世代で使える『100年住宅』だと、100年の保証付き住宅の販売を今年2021年から始めました」
飯村さんが造るのは、孫から「おじいちゃんの家は格好いいし、快適だし、電気代もかからない。僕も住みたい!」と言われるような家だ。
電気も水も自給できる、体験型宿泊施設を建設
実は電力を全て自給する家は、「インリー・グリーンエナジージャパン」と組み、茨城県ひたちなか市の住宅展示場の中にモデルハウスとして2017年に建てている。
外部の電力会社の送電網にはつながない「オフグリッド」ハウスで、4人暮らしを想定し、屋根には出力6.5kW(キロワット)の太陽光パネルを設置。地下室には12 kWh(キロワットアワー)の蓄電池を、駐車スペースにはV2Hシステム(*1)を備え、電気自動車(EV)と家の電気を融通し合えるようになっている。また、積雪などで発電ができない場合に備えてガスの発電機も設置し、外壁の断熱材には自社開発したセルロースファイバー(*2)を使っている。
*1 Vehicle to Homeの略。電気自動車を充電するだけでなく、車で貯めた電気を家庭で使用する仕組み。
*2 天然の木質繊維のこと。ファーストステージでは、新聞紙を原料に自社工場で製造している。
そして飯村さんは現在、より進化させた新たなモデルハウスの建設を水戸市内で計画している。
「そこでは井戸も掘り、水を自給できるようにします。農園も併設して、希望者は農作業もできるような体験型の宿泊施設にする予定です。来年2022年の春ごろの完成を目指しています。蓄電池のコストが下がってきたので、そこではガスの非常用発電機の使用はやめ、太陽光発電と蓄電池だけでエネルギーを賄おうと考えています」
地元の電力は地元でつくり、使おう!
また一方で、飯村さんは電力小売事業を行う「新電力いばらき」の代表取締役も務めている。電力自由化を機に、「地元の電力は地元でつくり、使おう」という思いで2010年に設立した会社だ。飯村さんは賃貸住宅の経営も手掛けており、その入居者に新電力いばらきへの加入をお願いすることでベースとなる採算は取れる、と設立を決めた。
その上で、例えばカーポート(屋根と柱だけの車庫のこと)が設置されていない家に太陽光発電パネル付きのカーポートを設置させてもらい、カーポートは家主が使いながら新電力いばらきの「発電所」としても活用して、発電した電気をその家や他の建物にPPA*モデルで販売するなどのアイデアも実行しようとしている。
* Power Purchase Agreement(電力販売契約)の略。電力の使用者が電力事業者(PPA事業者)に敷地や屋根などのスペースを提供し、PPA事業者が太陽光発電システムなどの設備を無償で設置して運用と保守を行うと同時に、電力の使用者が自家消費分の料金をPPA事業者に支払う仕組みのこと。
また、高齢者向けの介護施設を建て、その屋根に新電力いばらきとして太陽光発電パネルを載せて施設利用者に売電をすることで電力の地産地消を促進するアイデアも。これは実現に向かい、まもなく利用者の入居が始まるところだ。
「家庭での太陽光発電は、国が定めたFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)があって、発電した電気をお得な価格で買い取ってもらえるということで普及していきました。ただ、それは10年の期限付きなので、そろそろ契約から10年が経過する家も増えていきます。そんな家庭からの電気も、一般よりはいい価格で新電力いばらきが買い取り再エネを求める需要家(電気の使用者)へ供給することもできます」
車も含めたゼロ・エネルギー住宅の時代へ
そんな新電力にも携わってきた飯村さんだからこそ、太陽光発電に対する一般家庭の意識の移り変わりも実感している。
「太陽光発電を導入されたご家庭は、節電意識も含め、電気に対する関心が高まります。やはり売電できることは大きいと思います。そしてこれから電気自動車の普及が進むと、家庭で発電した電気で車を運転できるようになり、電気代もガソリン代も不要になるわけです。ZEH(ゼッチ=ネット・ゼロ・エネルギーハウス)という考え方があり、これは高断熱を含めた家の“省エネ”と太陽光発電などによる“創エネ”で、家で使うエネルギーを実質プラス・マイナスゼロにしようということなのですが、これからは車も入れたZEHが広まっていくように思います」
メイド・イン・茨城にこだわる
三世代にわたって住める100年住宅と新電力の掛け合わせ。飯村さんが手掛ける未来づくりのベースには「『メイド・イン・茨城』にこだわる」という思いがある。
「100年もつ家を建てても、その家がある地域自体が元気でなければ意味がありません。茨城に住んでいるのであれば、茨城にお金を落として地元の経済が回るようにする。そんな思いで、建材などもなるべく茨城に生産工場がある会社から買うようにしています。また、新電力いばらきでもさまざまな業務がありますから、地元の方を雇用しています。そして、新電力いばらきの利益の一部は地域への還元に使い、福祉施設へソファを贈ったりしています」
飯村さんはこれからも地域と共に事業を進めていきたいと考えている。
「太陽光発電にしても、いろいろな利用の仕組みを試したり、失敗を恐れずにチャレンジしたりしていきたいと思います。その中でうまくいったことはまねをしてもらえる。そんな存在になりたいです」
株式会社ファーストステージ https://firststage.biz/
新電力いばらき株式会社
https://shindenryoku.site/