再生可能エネルギーが身近になってくるカードゲーム「ハツデン」で、遊びながら電力について考えてみよう。

発電所を造って、自分の街に電力を安定供給するゲーム。

さまざまな方法でつくられた電力の供給を受けている、私たちの生活。太陽光発電、再生可能エネルギーという言葉を耳にするけれど、なんだか小難しい印象を受けてしまう……。そこで、オススメしたいのが、カードゲーム「ハツデン」。子どもから大人まで、さらには国内を飛び出して海外でも楽しまれている。

カードに描かれた太陽、木、水、風、地熱のイラストは、太陽光、バイオマス、水力、風力、地熱の5つの再生可能エネルギーを表している。「ハツデン」は、これらのエネルギーを利用した発電所を造って自分の街まで電気を運びつつ、対戦相手と発電量を競い合うゲームだ。

真ん中の段にあるのが再生可能エネルギーのカード。写真左から、風力発電、バイオマス発電、太陽光発電、地熱発電、水力発電を表現している。

まず、中央に5種類の再生可能エネルギーのカードを並べ、縦に自分の街を表すカード2枚を並べる。裏に送電線と鉄塔が描かれたカードは全て、発電量が数字で示された発電所カード。このカードの山からそれぞれ5枚ずつ引き、ゲームがスタートする。

再生可能エネルギーカード、街のカード(写真右側)を配置し、手札5枚を取って、ゲームがスタートする。

手札の発電所カードの中から1枚を選んで自身のエリアに置き、カードの山から1枚取るのを繰り返す。発電量が多いカードを上に重ねることはできても、発電量が下回るカードを上に重ねることは基本的にNG。発電所を造らないと決めて、カードを裏(送電線と鉄塔の絵柄)にして置いても良い。

再生可能エネルギーごとに計算する縦2枚の合計電力量が相手よりも上回れば、自身に1ポイントが入る。一見すると簡単そうだが、もう1つ大事なルールがある。それは、街に必要な電力量が決められているのだ。

街の絵柄のカードの下の方に書かれた、「9 ➓ 11」の数字。これは街の電気の需要量を意味していて、発電所カードの横5枚の合計が「10」であればベスト、「9」か「11」はギリギリOKを意味する。「8」以下になると減点の対象となり、「12」以上になれば即座にいずれかの発電所を裏返して鉄塔にし、合計を「11」以下に調整する必要がある。

ゲーム終盤。発電量「2」の太陽光発電のカードを置こうとしている。これを置くと街への発電量が、左側の風力発電から数えて「4+2+4+1」で合計11となり、ギリギリOK。

つまり、横の合計が9〜11に収まるように計算しながら、相手よりも発電量が上回るようにカードを出していかなければ勝利できない。常に自分と相手のエリアを見比べ、縦に横に足し算をしながらゲームを進めていく。

ゲーム終了時。さまざまな再生可能エネルギーの発電所が送電線でつながった。写真左の「SMART×2」は特殊技術カードと呼ばれ、得点がアップするなどゲームをさらに面白くする工夫も。

再生可能エネルギーについて、どう伝えていくか。

このゲームを作ったのは、「一点を競うゲームを通じて、その場の状況が一転するような楽しい体験を。」をスローガンにアナログゲームを制作する「itten(イッテン)」。「ハツデン」は、2017年にリリースされた。

「itten」の代表でボードゲームデザイナーの島本直尚さんは、仕事で再生可能エネルギーに関わった経験があった。それは、再生可能エネルギー発電所が造られたエリアで、エネルギーについての啓蒙活動を企画運営するという内容だった。

「itten」代表の島本直尚さん。再生可能エネルギー教育に関わった経験から、カードゲームを発案した。

太陽光発電所や風力発電所ができた地域の小学校に出向いて座学を行ったり、一緒に発電所の見学に行ったりして子どもたちの関心を高めていくという企画に合わせて、どうやったらさらに関心を持ってもらえるのか、島本さんは考えたという。

「ゲーミフィケーション(ゲームの要素や仕組みをゲームとは異なる分野で応用すること)を取り入れて、再生可能エネルギーについて学ぶ機会を設けたら、子どもたちは夢中になりました。その後、デザイナーの仲間と一緒に自らコンテンツ制作をしたくなり、再生可能エネルギーに関するゲームを作ることにしました」

島本さんが関わっている企画「こどもエネルギーサミット」の様子を伝える冊子。この企画は「スパークス・グリーンエナジー&テクノロジー」が主催し、全国各地で開催している。

島本さんは、再生可能エネルギーをゲームのテーマに決めたものの、構想を練るのに半年以上の時間が必要だったという。「再生可能エネルギーによって環境に負担をかけずに電力が生み出されていくことをゲームにできたら、と最初は思っていました。そうするとその状況をシミュレーションするようなゲームになって、ルールが複雑になる。ジレンマに陥りました」。

ゲームをしながら感じる「同時同量の原則」の重要性。

子どもから大人まで、日本国内に留まらず海外の人も楽しめるゲームを作りたい。そんな思いを持っていた島本さんは、電力供給の上で重要な「同時同量の原則」について思い出し、これをテーマに誰もが楽しめるゲームを作ることに決めたという。

誰もが楽しめるユニバーサルデザインでゲームを作る島本さん。2018年の北海道の大規模停電の中、「ハツデン」で遊びましたという声を聞いてうれしかったそう。

「同時同量の原則」とは、電力の安定した利用を実現させるため、電力の需要(使う電気)と供給(作る電気)を絶えず一致させること。電気はそのまま貯めておくことが難しく、また電気が足りなくなって停電を起こすわけにはいかないため、変動する需要量に供給量を合わせなくてはいけないのだ。

普段は無意識のうちに電気を使う生活を送っているが、この「同時同量の原則」の重要性を知る機会が時折ある。例えば、2018年9月に北海道で起きた最大震度7の地震。これにより、北海道内の火力、風力、水力発電所が次々と停止したことで電力の供給力が失われていき、需要量とのバランスが崩れて最後には大規模停電が起きてしまった。

「近年は九州で電力の需要と供給を合わせるために、太陽光・風力発電の出力抑制が行われています。発電設備は充実しているのに出力を抑制せざるを得ない実社会は、ゲーム内で感じる“ジレンマ”に通ずるものがあります」と島本さん。相手に勝ちたいけれど、適度な電力量にしないと停電になって減点の対象になる。この“ジレンマ”がゲームの醍醐味でもある。

「ハツデン」を作る際、エコの視点から競争原理が良くないとも言われるが、「人はなぜか争うのが好き。そこは否定せずに作りました(笑)」と島本さんは話す。

現在は、電気は貯められないものであるため、「同時同量の原則」が鉄則になっているが、技術革新が進んで状況が変わっていく可能性も大いにある。「大容量蓄電池が実現するなどしたら、このゲームのテーマが古くなっていくかもしれません。その時はまたその時代が抱える“ジレンマ”を取り入れて、『ハツデン』の新版を出しても面白いのではと思っています」と島本さん。

そんな未来に希望を持ちつつ、まずは「ハツデン」で再生可能エネルギーについて親しむ一歩にしてみては。