電力自給は難しい!? その仕組みを学べるワークショップに、神奈川県相模原市の旧藤野町で参加してみた。

4つの機器をつなぐだけで、太陽光発電システムができた!

ソーラーパネルを使い、電力を自給するといってもどこから始めれば良いだろうか−−。アウトドア用や防災用にコンパクトなソーラーチャージャーも販売されているが、仕組みそのものを知ったら電力自給がさらに身近になりそうだ。

神奈川県相模原市の旧藤野町にある藤野電力では、2011年より「ミニ太陽光発電システム組み立てワークショップ」を開いている。50W(ワット)、もしくは160Wのソーラーパネルを使ったシステムを自分で作るところから体験できるという貴重な機会だ。

教えてくれるのは、藤野の隣の旧相模湖町で暮らす鈴木俊太郎さん。20年以上前から自宅や屋外イベントで太陽光発電システムを取り入れてきた大ベテランだ。

鈴木さんなら10分で完了してしまう作業内容だが、このシステムについての解説はもちろん、普段あまり意識することのない電力供給の仕組みについてなども交えて話をするため、たっぷり3時間のコースになっている。

写真左から藤野電力の髙濱宏至さんと、鈴木俊太郎さん。

太陽光発電システムに必要なものは、ソーラーパネルをはじめ、「チャージコントローラー」、「バッテリー」、「インバーター」、それぞれをつなぐケーブル類と意外とシンプルだ。

「チャージコントローラー」は、電圧や電流をコントロールしてバッテリーへの過充電などを防ぐもの。また、「インバーター」は、太陽光が作る直流12V(ボルト)の電気を、家庭用電圧の交流100Vに変換する役割がある。

太陽光発電システムに必要な機器や工具は意外と少ない。

これらの機器をケーブルで正しくつなぐだけで、太陽光発電ができるようになるが、最初にクリアしなければいけないハードルがある。それは、“皮むき”と呼ばれる作業。電工ペンチでケーブル外側の被膜に切り込みを入れた後、被膜を引っ張ってむき取り、中の銅線だけにする。

電工ペンチでケーブル外側の被膜をむき取る作業。

「器用にすぐできてしまう小学生もいれば、なかなかできずに最初の40分以上これに格闘する大人もいます」と鈴木さん。被膜の切り込み具合や、被膜をむき取る際の加減を間違えると、中の銅線も一緒に切れてしまう。後にケーブルが外れたり不具合を起こしたりしないようにするためにも、“皮むき”は重要な一歩だ。

この皮むきを終えたら各機器をつなぐためにコネクターや端子をケーブルに取り付け、さらに各機器とケーブルをつなぐだけで完了。作業内容を覚えてしまえば10分とはいかないまでも20、30分もあれば出来てしまうくらい簡単な作業だった。

「こんなことで本当に太陽光発電ができるの?」と半信半疑だったが、「インバーター」にスマホの充電ケーブルを挿すと、充電が開始された。太陽光発電はこんなにも簡単! 感動と共に、今後停電が起きた時には最低限の電源が確保されるという安心感も同時に得ることができた。

チャージコントローラー、バッテリー、インバーターをつないだところ。真ん中の赤とグレーの機器は、バッテリーに正しく充電されているのかを確認する電流電圧チェッカー。

何がどのくらいの時間使えるのか、把握する

作業の合間の鈴木さんの話に、自身の無知さを知ることとなり、驚愕することしばしば。ただし、これだけは覚えて欲しいと言われたのが、「電流(A・アンペア)」と「電圧(V・ボルト)」の話だ。

「電流(A・アンペア)」と「電圧(V・ボルト)」を掛け合わせると電力(W・ワット)に、さらに「電力(W・ワット)」に使用時間(h)を掛け合わせると「電力量(Wh・ワットアワー)」になる。太陽光発電システムを使いこなすうえで必要な知識のため、これを最初に押さえる必要がある。

電流は水量、電圧は水圧に置き換えて考えると分かりやすいと鈴木さんは説明する。

今回のワークショップで選んだのは、50Wのソーラーパネルを使うコース(1日の発電量の目安は200Whほど)。バッテリーは12V、20Ah(20Aの電流なら1時間取り出せる容量)を使用。つまり、バッテリーが満タンであれば、12V×20Ah で、240Whを取り出せることになる。

例えば、パソコンがどのくらいの時間使用できるのかを調べる場合、まず本体裏などに表示されている電力と電圧を確認する。電力19V、電圧1.58Aであれば、電力量は19V×1.58A=30.02W。バッテリー残量240Whならば、240 Wh÷約30Wで、約8時間使用できることになる。

ただし、「バッテリーは充電量の半分を切るとチャージされなくなる特性がある」と鈴木さん。バッテリーに貯まった分の電力量だけを使おうとすると、実際には半分の約4時間しか使えないことになる。

また、8Whの電球を灯すならば、約30時間の使用が可能(バッテリーの電力のみの場合は約15時間)。災害時に停電になった時、自宅の太陽光発電システムで何がどのくらい使用できるのかを知っておくことは、もしもの時の安心につながる。

電気ポットの消費電力表示。家庭内の機器がどのくらいの消費電力かを把握することが大切だ。

ちなみに、電気ポットの場合は、100V、10Aで、消費電力は1000W。240 Wh÷1000Wで計算すると、14.4分。実際のところ7分しか使えないことになる(実際には、1500W以上出力するインバーターでないと動かすことができない)。

エネルギーの自給で、世の中がもっと良い方向へ

2011年3月に起きた東日本大震災時、藤野周辺地域で停電が起きていたが、隣の旧相模湖町に暮らす鈴木俊太郎さんの自宅だけは、このワークショップで作った同じ程度の太陽光発電を取り入れていたために停電にならなかったことが話題になったという。

鈴木さん宅では東日本大震災発生時、小さな自作太陽光システムのおかげで明かりとラジオをつけ、薪ストーブで暖をとることができた。

鈴木さんの電力自給生活は、20年以上前から。夏のある日に所有していたフォルクスワーゲン・キャンピングカーに陽が当たってものすごく熱くなっているのを見て、この太陽エネルギーをすぐに上がってしまうバッテリーの充電に生かせないかと思い始めた。そして、ソーラーパネルやバッテリーを購入して電力自給生活がスタートしたのだった。

10年前の震災をきっかけに、エネルギーの在り方に注目が集まった。大手電力会社がそれぞれの発電所で発電した電力を各地域に送配電する「中央集権型」を見直す気運が高まり、藤野地区の住民が有志で「藤野電力」を立ち上げた。その際、自然エネルギーに関する経験が豊富な鈴木さんにどのようにすれば良いか相談があったという。

当時の「藤野電力」は、地域で発電所を持つことを想定していたが、鈴木さんは、太陽光パネルで電気を作り、その電力を自分たちで消費することが基本と伝えたという。

「当時、水力発電所を作る話で盛り上がっていましたが、作った後に誰がメンテナンスするのかなど、素人では負えない問題が発生する可能性が多分にあります。まずは、自分たちでできることからという思いでした」

自身で手を動かして太陽光発電システムを組み上げ、その後も自力で電力の自家消費とメンテナンスを行えば、電力自給に自信がついてくる。

鈴木さんは相談を受ける以前から仲間内で太陽光発電システムを作るワークショップをしており、「藤野電力」でも始めることになった。北は青森県から南は沖縄県までの各地に出張して、ワークショップが開催されてきたという。

現在は、月1回程度、「藤野電力」がある藤野地区で定期的に開催されている。単なる組み立て方を教えるだけではなく、電気の基本から世の中のエネルギー問題、電力にまつわる仕組みや意外と知られていない話など、電気が面白いと思える内容を伝えることを、ワークショップでは大事にしている。

「個人的には、“自給自足“という考え方が浸透していけば、自ずと物事の真髄が見えてきて、その結果世の中が変わると思っています。そのきっかけを、電気を通じて提案しているだけです。エネルギー、食、建築でもなんでも自分で行うと、その難しさや楽しさ、問題などがいろいろ見えてきます。試行錯誤の過程を踏むとシンプルな考えに落ち着き、世の中が良い方向へシフトしていくと思っているので、そうなるような活動を続けたいと思っています」

まずは自分でやってみて、その良さと大変さを体験すれば、自ずとシンプルな考えにたどり着くと鈴木さんは話す。

電力を自給することで得るさまざまな学びとシンプルな考え方。この一歩が自分の暮らしを変えるきっかけになるかもしれないので、興味を持った人はぜひワークショップに参加してみては。

藤野電力 https://fujino.pw/