地域の暮らしや経済を変える千葉県匝瑳市のソーラーシェアリング。環境に負荷をかけずに生きるヒントがある。

発電と農業を通じて、地域コミュニティを活性化させる

千葉県匝瑳市(そうさし)でソーラーシェアリング発電所の建設が続き、発電量と耕作放棄地の再生が一気に高まったことに加えて、同市内で有機農業に取り組む若手農家中心に設立された農業生産法人「Three little birds」(スリー・リトル・バーズ)をはじめさまざまな団体や取り組みが新たに生まれてコミュニティも活性化してきた。

2018年に新たな農業生産法人「Re」(リ)が設立。ソーラーシェアリングで栽培された作物を使った加工品の開発や販売、古民家をリノベーションしてできたゲストハウスの運営やエコツアーの企画なども担って、都市と地域の人々をつないでいる。

ソーラーシェアリングで栽培された大豆を原料にして作られたみそのほか、大豆を使ったカフェインレスのコーヒーも製造している。

農業生産法人「Re」(リ)が運営する古民家を再生したゲストハウス。都市と地域の人をつなぐ役割も果たしている。

また、同年にソーラーシェアリングの売電利益を基金にする「豊和村つくり協議会」が立ち上がった。協議会には、自治会や地元環境保全会、学校のPTAや保育所の保護者会などのほか、市民エネルギーちばをはじめとするソーラーシェアリングに関わる事業者や、約10年前から田んぼオーナーを募って都市と地域をつなぐ「SOSA Project」(そうさプロジェクト)が参加し、環境保全や新規営農支援、子どもたちの教育支援など地域の課題解決に取り組んでいる。

東さんはソーラーシェアリング発電所のそばにあるその場所を指差しながら、こう教えてくれた。「ゴミの不法投棄が問題になっていたのですが、売電利益で片付けてようやくきれいになりました。今後は畑の公園にして、都市と地域の人の交流の場にしていきたいですね。場があれば一つの生態系となって、いろいろなことが自然と生まれていくんです」。

ソーラーシェアリングから広がっていった企業や団体。互いに連携や協力しながらさまざまな活動を生み出している。図版提供:市民エネルギーちば

そして、このような力強いコミュニティに背中を押されて、匝瑳市に移住する人もいる。メガソーラー発電所で除草機をかけていた内山隼人さんもその1人だ。内山さんは、東日本大震災で都市の脆弱さを実感し、田んぼのオーナーになるプロジェクトへの参加を機に匝瑳市に頻繁に訪れるようになり、2年前に家族と共に移住した。「エネルギーを自給し、有機農業を営むこの場所は環境負荷が少ない。取り組みに感銘を受けてここにきました」と内山さんは話す。

2年前、家族と共に匝瑳市に移住した内山隼人さん。内山さんは、マルチに活躍する須藤元気さん率いるダンスパフォーマンスグループ「WORLD ORDER」(ワールド・オーダー)のメンバーとして活躍していた。

内山さんのように匝瑳市での取り組みに興味を持ち、市民エネルギーちばがソーラーシェアリングで栽培した作物の収穫祭のほか、視察や見学に年間1500人が訪れるという。その際、地域の飲食店を利用したり、お土産を購入したりすることで、地域にお金の流れを生む。元気なコミュニティは他の地域の人々を引きつけ、さらなる好循環を生み出していくのである。

これからの地球環境とどう向き合っていくのか

ここ匝瑳市のソーラーシェアリングで発電する量は、現在総計2.5MW(メガワット)で、1年後には5MWになる。耕作放棄地の再生のみならず地域コミュニティの活性化にも取り組む市民エネルギーちばは、これからの未来をどのように描いているのだろうか。

DC1kW(直流1キロワット)発電する設備を作るのに現在は13万円かかるが、これは6年前と比べて60%ダウンしているという。「10万円を切ると他のエネルギーと競争力を持つようになるので、環境負荷が少ないという理由でなくても選ばれるようになる。私たちの特許を使えば10万円を切ることは可能で、来年にはこれを発表できると思います」と東さん。

ソーラーシェアリングの先駆者である市民エネルギーちばは、自分たちでも実証実験を重ねながら発電効率をさらに上げるための方法を探っている。その一つとして、インリー・グリーンエナジー製の両面受光タイプの細形パネルを世界で初めて運用中だ。「ソーラーシェアリングは農地に合わせてパネルを設置し、発電量が最大になる向きで設置できるとは限らないため、朝夕の光や田んぼの水面の反射を裏面で受光できるメリットは大きい。ここでは、通常パネルに比べて発電量が約15%アップ。つまり、同等の光量を得るなら、15%パネルを減らせることにもなります」と東さんは説明する。

インリー・グリーンエナジー製の両面受光タイプの細形パネル。市民エネルギーちばの実証実験では、通常パネル使用時よりも発電量が15%アップしたという。

今後、コミュニティでエネルギー供給源と消費施設を備えてエネルギーの地産地消を目指す「マイクログリッド」に取り組むことも視野に入れているという。例えばEV(電気自動車)の軽トラックを地域で利用する場合、農作業をしている間にソーラーシェアリング発電所で軽トラックに蓄電して、自宅に帰ったら夜間に必要な電力をそこから供給するという新たな生活スタイルも可能になってくる。

市民エネルギーちばでは、環境ファーストでつながる企業や団体と一緒に地球環境を破壊しないための取り組みを加速させていくと話す東さん。

「特に人口密度の低い地域では、物事を複数のレイヤー(層や階層のこと)で捉えて経済合理性を担保していくことが大事です。他にも、EV車でスーパーに買い物に行くだけでなく、余っている電力をEV車の蓄電池を介してスーパーに売るという新しい生活スタイルも考えられる。こうやって1つの行為に別の行為を重ねるようにすれば物事の効率が良くなって地域でも経済を回していけるし、マイクログリッドの発達によって送電網がなくなり、景観が美しくなって地域の価値もさらに上がりますよ。

太陽光パネルもゴミになると言われるけれど、原子力や化石燃料に比べたら、自由な世界観の中に太陽光も風力もある。太陽光は小さな単位から始められるメリットがあるけれど、現状の中のベストであって完全なエコではなく、私たちは自然と経済が調和するものを模索している1プレーヤーに過ぎません。人間は自然の一部であるという意識を持ちながら取り組みの質にはこだわり、環境ファーストでも一緒にやっていきたいという意志のある人たちと変化を起こしていきたい」

地球環境に負荷をかけずに充実した暮らしを送ることは、私たちの歩み次第でそう遠い未来ではない。東さんの話を聞いていると、その予感は強くなってくる。

写真提供:市民エネルギーちば

市民エネルギーちば
https://www.energy-chiba.com
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