途上国の暮らしをソーラー発電など革新的で使いやすいテクノロジーで向上させていく。コペルニクの挑戦とは。
灯油ランプを使ってみると、天井が真っ黒に
日中、太陽の光が燦々(さんさん)と降り注ぐインドネシアのバリ島。地元の人々は、洗った後の食器やまな板、ザルなどを外に出し、乾かしている。
「それで自然と除菌もされます。シンプルですが、改めてその効果を皆さんに見直してほしい知恵だと思いますし、太陽の力を実感できます」
国際連合(以下、国連)で10年近く勤務し、東ティモールやシエラレオネの緊急・復興支援などを担当した後、バリ島を拠点にNPO法人コペルニクを妻のエヴァ・ヴォイコフスカさんと共に創設した中村俊裕(としひろ)さんは話す。
ただ、一方で、そんなシンプルな暮らしを続ける途上国の貧困地域のなかには、電化がされておらず、灯油のランプを使っている暮らしもあった。
「国連時代に東ティモールにいた時、停電ばかりしていたので、現地の人と同じように灯油ランプを買ってみました。つけてみると、すすで天井が真っ黒になって驚きました」
ラストマイルに、ソーラー発電の明かりを届ける
コペルニクを創設したのは2010年。目的は「ラストマイル」と呼ばれる途上国の最も支援が行き届きにくい地域に、現代の革新的なテクノロジーを届けることだ。
「電気や清潔な水を利用できなかったり、教育を受ける機会もなかったりする地域が世界にたくさんありますが、現代のテクノロジーで解決できることもあります。問題は、そのテクノロジーが必要としている人々に届いていないことなのです」
中村さんは創設当時の思いをそう語る。
テクノロジーとは、例えばソーラー発電と組み合わせた手頃な価格のLEDランプや、手軽に使える小型浄水器、燃焼効率のいい調理用コンロなどだ。
灯油ランプがLEDランプになれば、灯油代が節約でき、煙による健康被害や失火の心配がなくなる。安定した安全な明かりで子どもは夜に勉強ができ、大人も経済活動や内職などができる。
コペルニクではまず、そのテクノロジーを必要とする島しょ部や農村部に届け、暮らしの質を向上してもらう仕組みをつくり、インドネシアのほか、ケニア、ナイジェリアなどで活動を始めた。
現地の信頼できるパートナーと組み、それぞれのコミュニティのニーズに合わせたテクノロジーを届けることを心掛けた。また、女性の経済的自立につながる「女性販売員プログラム」なども導入した。
テクノロジーと地元産業との「掛け算」で何を生み出すか
そして創設から11年。コペルニクの役割も変化してきたと中村さんは話す。
「最初は灯油ランプがソーラーのLEDランプに替わること自体が画期的で、社会にインパクトを与えることができました。その結果、無電化地域の課題が注目されるようになり、LEDランプの普及も進みました。また、インドネシアでは7年ほど前に約84%だった電化率が、今では99%になっています。経済発展著しい国が、力を入れて電化を進めたためです」
現在(2021年)、コペルニクはインドネシアを含む東南アジアやアフリカなど世界27か国で、国際機関や政府、企業などと組んだ、貧困削減につながるテクノロジーの開発や検証、実験事業に軸足を置いている。
「今はテクノロジーをどう活用していくのか、例えば太陽から得られる電気や熱を使って、何をするのかが重要になっています。ソーラー発電と地元の伝統産業との『掛け算』で何を生み出すことができるのか。それを検証し、その結果を世界で活用してもらいたいと考えています」
太陽光を活用した薬草の生産性向上、海水の淡水化事業……
コペルニクはここ数年で、主なものでは以下の太陽光・太陽熱関連の実証実験事業を手掛けた(一部事業を継続中)。
①伝統的な薬草の薬の生産性向上のため、協同組合に対してソーラーシステム導入を支援した事業
②課金式のソーラーホームシステム導入による手頃で持続可能な電力の供給事業
③ソーラードライヤー(太陽熱乾燥機)による海藻の乾燥工程の改善事業
④ソーラードライヤーと木製の発酵槽を組み合わせたカカオ農家の収入向上事業
⑤太陽光を使った海水の淡水化技術の実験事業
①は無電化のため、薬草の生産事業を手作業で行っている村にソーラー発電システムを導入してもらい、電灯や薬草の加工機械の稼働、受注のために必須な携帯電話の使用、書類印刷のためのプリンター稼働などに役立ててもらう内容だ。
②はソーラー発電システムそのものを費用面から家庭に導入できない住民が、使用する分だけの電力を購入できるようにする仕組みで、③と④は太陽熱を活用する事業。⑤は太陽光で発電した電力で淡水化装置を稼働させ、海水から塩分を除去して清潔な水を得る事業だ。
やってみなければわからない。
「それぞれの地域のニーズを把握し、そこにある課題を解決するテクノロジーを届けています。多くは作業の効率化や収入向上の成果などを挙げてきました。一方で、どれも今後に生かすための『実証実験』でもあるので、成功とは言えないこともやはりあります。①の薬草生産の効率化でいえば、まずソーラーシステムを置く場所をどこにするかということで、公平性があり、公共の場である町の役場にしました。ただ、それだと、実際の作業場から遠く、思ったようには使ってもらえませんでした。『公平さ』に重点を置き過ぎると、実用から遠ざかることもあると学びました」と中村さんは話す。
ただ、そんな「失敗」もやってみなければわからない。
今は中村さんの古巣である国連機関も、世界的な国際NGOや企業も、支援の在り方を時代に合わせてアップデートしなければいけないと考えるようになってきている。そんな中、現地のニーズを把握し、実践的な実証実験を行うことができるコペルニクはますます注目され、期待も高まっている。
SDGsの浸透。技術の進化を活かせるアイデアの時代へ
「SDGsへの理解も深まり、この10年で時代も大きく変化しました。インドネシアの代表的なベンチャー企業である『Gojek(ゴジェック)』も最近初めてサステナビリティレポート(*1)を出し、ステークホルダー(*2)とともにゼロ・エミッション(*3)に取り組むことなどを盛り込んでいます。ゴジェックはバイクタクシーの配車サービスから大きくなった会社ですが、バイクの電化も進めようとしているようです」
*1 持続可能な社会に向けた企業の活動をまとめた報告書
*2 組織の利害関係者
*3 あらゆる廃棄物を原材料などにして有効活用し、廃棄物を一切出さない資源循環型の社会システム
最後に今後のコペルニクの展開について、中村さんに聞いてみた。
「ソーラー発電のパネルやバッテリーの技術的進化も実感します。次はそれをどう活用するのか。何かと組み合わせた相乗効果など、いかにいいアイデアを出せるかにかかっています。コペルニクは小さな組織ですが、大きなODA(政府開発援助)を動かしているようなところから頼られたりするようになってきて、やりがいを感じます。これからも、世界をよくするためのデザインやシステムづくりに関わっていきたいと考えています」
コペルニクHP:https://kopernik.info/jp