太陽光パネルの普及が進めば、脱炭素社会の実現に近づく。ただ、そのためにはパネルを設置できる場所を根本的に増やす必要がある。「建材」として扱うことでパネル設置を広めようとする、インリー・グリーンエナジージャパンの取り組みを紹介する。
駐車場の屋根を太陽光パネルにする。そう聞くと、それほどの目新しさは感じないかもしれない。しかし、それが脱炭素社会の実現に向けた、エポックメイキング的な役割を果たすものになるかもしれない。
日本初、駅周辺や市街地でも設置できる認定ソーラーカーポート
インリー・グリーンエナジージャパン(以下、インリージャパン)は2021年8月から、屋根一体型のソーラーカーポート「MOENZO(燃えんぞぅ)」の販売を始めた。「MOENZO」とは駐車場の屋根を太陽光パネルにしたもので、国土交通省が定める「飛び火認定(DR)」を屋根一体型ソーラーカーポートとしては日本で初めて取得(*1)したことが最大の特徴だ。
飛び火認定とは、飛び火(屋根防火)に関する法的基準を満たす構造であることを認めるものだ。認定を受けると、駅周辺や市街地など、建築基準法で制定されている防火地域にも設置可能となる。一般家庭のカーポートだけではなく、カスタマイズをして、民間企業の駐車場やスーパー、ショッピングモールなどの大規模駐車場にも据え付けることもできる。
*1 2021年6月24日時点、インリー・グリーンエナジージャパン調べ。
開発に携わってきたインリージャパン副社長の張文波 (チョウ ブンパ)さんはこう話す。
「太陽光パネルはそもそも 燃えにくい。パネル自体に安全規格があり、それをクリアしたものが商品になっているためです。ただし、カーポートとの一体型で販売する場合、太陽光パネルが『建材』としてみなされます。郊外だけではなく、市街地や駅周辺などより厳しい防災基準が設けられた防火地域で設置するためには、耐火性能を証明する必要があり、その認定を受けたのが『MOENZO』です」
そもそも飛び火認定試験とはどのような試験なのか、どのような条件をクリアする必要があるのかなどリサーチから始め、日本の気象に合わせた 、防雪、防水対策も施しながら約2年の準備期間を経て認定試験をパスした。
太陽光パネルを景観にもマッチした「建材」に
冒頭で「エポックメイキング」と評したのは、MOENZOでは太陽光パネルが「建材」として扱われるためだ。
日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラル、脱炭素社会を実現することを宣言している。その実現には再生可能エネルギーのさらなる普及が不可欠で、その柱の一つは太陽光発電となる。
ただし、太陽光パネルを設置するためには土地が必要だ。日本では一般家庭の自宅屋根への設置や、郊外の遊休地などでの大規模な太陽光パネル設置が進んでいる。実は、 (*2) なっている。
今後、太陽光発電をさらに広めていくためには、都市部を含め、これまでにない発想でパネルの設置を行っていく必要がある。
*2 経済産業省「今後の再生可能エネルギー政策についてp.22/平地面積あたりの各国再エネ発電量」https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/025_01_00.pdf (2021年9月30日閲覧)
「これからはBIPV(*3 )、つまり『建材一体型太陽光モジュール』が注目されていくと思います。ヨーロッパなどで導入が進んでいる、建物の壁や屋根に建材の一部として太陽光パネルを使用する方法です。都市部のビルや商業施設では、発電性能のよさだけではなく、景観にマッチした建材であるかどうかも求められます。我々インリーの技術開発が進み、太陽光パネルと聞いて想像される 以外にも、緑や黄色など多彩でカラフルなもの、また瓦やレンガタイプのものもすでにあります。ただ、それを建材として日本で使用するには、耐震、耐熱などを含め、日本の建築基準法に則ってなければならず、それらを一つ一つクリアしていくことがこれからの課題です」と張さんは話す。その第一歩が「MOENZO」なのだ。
*3 Building Integrated Photovoltaicsの略称。
四川大地震、東日本大震災を経験して
「また、『ZEB(ゼブ)』もこれからSDGs(*4 )に取り組む時代のキーワードになっていくはずです。これはネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略称で、建物で消費するエネルギーの収支を年間でゼロにすること。企業などの環境対策がより厳しい目で見られるようになる中で、企業活動での消費エネルギー収支をゼロに近づけていくためには、たとえば自社ビルそのものでエネルギーを創出することが考えられます。そこで、建材と太陽光モジュールを融合させたBIPVが必要とされていくと思います」
すでに中国では、高層のビルやホテルなどの壁面に建材として太陽光パネルが使われているところも多いと張さんは言う。「壁面だと垂直になるので、(太陽光の入射角の関係で)発電効率は落ちてしまうのですが、20階とか30階レベルの高さで南側の壁面に設置すれば、かなり効率のいい発電ができます。技術的にそこまで可能になっています」
*4 持続可能な開発目標のこと。2030年までに持続可能でより良い世界を目指す。
そう語る張さんは中国・四川省出身だ。半導体について学んでいた大学生時代、四川大地震(*5 )を経験した。大学卒業後、日本の大手電機メーカーに開発研究職で入社して日本で暮らしていたところ、2011年の東日本大震災も経験することになった。その後、2015年にインリージャパンに転職した。
*5 2008年5月12日、四川省で発生したマグニチュード8.0の直下型地震。死者約6万9000人を出す大地震となった。
「地震を経験して、やはり価値観は変わりました。また私が学生の頃は中国の都市部でのPM2.5の大気汚染も問題になっていました。冬場に化石燃料を燃やすためです。きれいな空気や暮らしやすい環境を未来に残していくため、安全な再生可能エネルギーの割合を増やしていくべきだと思っています。今の仕事のやりがいは、そこにあります」
一社だけではなく、多分野との連携で脱炭素社会を実現する
インリージャパンとしては今後、MOENZOの普及を進めていくほか、「ソーラーシェアリング」にも着目している。ソーラーシェアリングとは農地に太陽光パネルを設置し、太陽の光を“発電”と“農業”でシェアするものだ。そうやって暮らしや地域の産業に密着したところで太陽光発電が広まれば、地震などの際の地域の防災対策にもつながる。停電が起きても、独立した電気が使えるためだ。
「電気がどこでつくられ、どうやって自分のところまで来ているのか。日々の暮らしの中で意識しづらいことです。実は私もインリージャパンに入社するまでは、電気代の明細を見ていませんでした。でも、エネルギー問題と私たちの暮らし、そして未来はつながっています。再生可能エネルギーを広めるためには、太陽光パネルのメーカーだけが頑張っても限界があります。建材として活用するなら、さまざまな分野の企業との連携が必要になります。皆さんと一緒に脱炭素社会を実現していきたいです」
インリージャパンは、多くの企業や人との連携とそこから生まれるアイデアで未来を切り開きたいと考えている。
https://yinglisolar.co.jp/MOENZO/