ソーラーパネル付きの小さなキオスクが、アフリカで導入されている。ドイツ発「ソーラーキオスク」の画期的な取り組みとは?
アフリカでは約6億人が電気のない生活を送っていると言われている。広大なスケールのアフリカで、電力網を農村部まで張り巡らせるのは、物理的に難しい。しかもこのような地域は都会に比べて電力消費量が非常に少ないため、送電網を設置し、維持するコストを賄うのが難しい。そのため、農村部は電力網に接続されず、皮肉にも「オフグリッド」せざるを得ないのだ。
しかしこれは、アフリカの農村部で電力の需要がない、ということではない。一般家庭への家電製品の普及に加え、スマートフォン普及率やモバイルブロードバンドの加入者数はアフリカで急速に伸びている。銀行口座やクレジットカードを持たない人が多いアフリカでは、いまや送金・決済にガラケーやスマホが不可欠であり、電気とインターネットが生活を支えている。送電網を整備するよりも安価な方法で、遠隔地が自立して電力、そしてネット環境を確保できることが喫緊の課題なのである。
そんな時流をとらえ、2011年からアフリカを中心に太陽光発電事業を展開してきたのが、ドイツの企業「ソーラーキオスク」だ。キオスクという名前は、主力製品に由来する。ソーラーパネルが屋根に設置された多機能な小型売店「E-HUBB」をはじめとして、ソーラー関連の製品やサービスを展開している。
アフリカを含め、世界の“オフグリッド地域(電力網に接続されていない地域)”の電気市場は年間約250億ドルという試算もある。ソーラーキオスクはその市場をビジネスとしてシビアに狙いつつ、BOP(*1)と呼ばれる低所得貧困層の人々の暮らしを、ソーラー事業を通して豊かにしようとしている社会的企業だ。
*1 Base of the (Economic) Pyramidの略。世界の所得別人口構成ピラミッドの最下位層(年間所得が3000ドル以下)を指す。途上国を中心とした約45億人が該当する。
電力自給型の“ビジネス・イン・ボックス”
アフリカ向けの太陽光発電に関連したサービスや製品で、電気とインターネットがセットになっているものは他にもある。しかし、それに加えて、地域コミュニティやローカルビジネスを活発化するところまでデザインしているのがソーラーキオスクの特徴であり、その代表格が「E-HUBB」という製品だ。
電力網から外れた農村部では、日が暮れると真っ暗になり、経済活動が止まる。しかし、電力自給型の“ビジネス・イン・ボックス”と呼ばれるE-HUBBは、ソーラーパネルと蓄電池によって昼夜を問わず営業することができる。
まずは地域の売店として、食料や日用品を販売するのが基本形。そこにはパスタや砂糖、牛乳といった日々必要なものはもちろん、子供の学校用ノートもあれば、18歳以上が購入できる避妊具も売られている。さらに発電した電気を使ってスマートフォンを充電したり、写真や書類をプリント・コピーしたりするサービスも。誰もが用事のあるような場所は自然とにぎわい、やがてコミュニティのハブになっていく。そして、E-HUBBの電力を利用して、周辺にさまざまな店舗が誕生する。
「E-HUBBの周りにできたのは、服の仕立て屋、ヘアサロン、レストラン、肉屋、機械の修理工場、農作物の加工所、映画館など。E-HUBBが電力を供給することによって地域全体のビジネスがエンパワーされます。これにより、地域社会の経済的な生産性が上がって人々の収入が増え、教育や健康、貯蓄や投資といった金融サービスに充てられるように。さらに、太陽光発電の電力により、木炭や灯油などのバイオ燃料の使用量が減り、アフリカで問題になっている森林破壊を防ぐことができます。E-HUBBは、社会的、経済的、環境的な側面でコミュニティ全体に正のスパイラルをもたらしています」(ソーラーキオスク CEO Thomas Rieger 代理:Andreas Spieß)
強くて、導入しやすいE-HUBBの魅力
E-HUBBは、ドイツ・ベルリンに拠点を置く建築家集団GRAFTによってデザイン・開発されている。乾燥、灼熱(しゃくねつ)、砂嵐……と、気候の変化が激しいアフリカ。耐久性があるのはもちろんのこと、どんな状況の遠隔地でも導入できる工夫がされている。キット売りにより輸送が簡単で、重機なしで3日あれば組み立てが完了する。専門的な知識がない現地の人でも組み立てられる設計だ。電気や水などのインフラとつなぐ必要がない独立した“箱”なので、ラストマイルコミュニティ(インフラや交通機関が整っていない遠隔地)に設置可能だ。
さらにE-HUBBには、“家具付きマンション”のように冷蔵庫、携帯電話の充電器、Wi-Fi、コピー機、プリンター、スキャナーなどの家電製品がキットに標準装備として含まれているため、導入一日目からビジネスを始められる。そして、E-HUBBの運営者やその従業員には、地元の関連会社によって専門のトレーニングや教育が提供される仕組みになっている。
E-HUBBは現在、アフリカやアジアの15か国で約250軒導入されており、約1000人の雇用を生み出している。E-HUBBを所有するのはソーラーキオスクだが、運営しているのは地元の起業家だ。彼らはショップオーナーとして経営しながら店番や警備員なども雇うので、E-HUBBを通じて多くの雇用が生まれている。失業率が平均して40%を超えるアフリカの地方で、E-HUBB1軒につき4〜5人の新規雇用を生み出し、およそ500万人が何らかの形でE-HUBBに関わっていることになる。さらにソーラーキオスクは、東アフリカ最大規模となるソーラー発電を利用した小売産業も展開している。
写真提供:ソーラーキオスク