免許不要で、歩道を移動できる電動の「歩行速モビリティ®RakuRo®(ラクロ®)」。ラクロによってどんな社会が可能になるのだろう?

桜が満開の時期に、ラクロでお花見スポットを1時間で巡る「花見ツアー」を実施した際、参加した90代の女性が「長生きして良かった」と感想を述べてくれた。

「そこまで言っていただき驚きましたが、うれしかったです。歩けなくなると、外に出なくなる高齢者も多いんです。車いすを押してもらうなど、人に頼むことを申し訳なく思ってしまうんですね。でも、自動運転で外に出られれば、気兼ねなく花見もできます」と開発した株式会社ZMPロボライフ事業部長・龍健太郎さんは話す。

「実は弊社の代表(谷口恒社長)は、実家がお寺で本人は阿闍梨(あじゃり)の位を持っています。ビジネスでも『一隅を照らす』(*1)をモットーにしていて、自分たちがいる所で社会を明るく照らす努力をし、誰かのために役に立つことを目指しています。私たちが持つロボットの技術を生かし、花見を諦めていた高齢の方に、再び花見を楽しんでいただけるようにする。人の気持ちや社会を明るくする、そんなお手伝いをこれからもしていきたいと考えています」

*1 比叡山延暦寺を開いた伝教大師最澄による、「一隅を照らす、これ即ち国宝なり」という教え。自分が世間の目立たない所にあっても、また、自分の力が目立たない力でも真の心に努め、尽くすことの大切さを説いたもの。(参考:比叡山延暦寺ホームページ https://www.hieizan.or.jp/

ラクロの誕生背景から現在の活躍の様子までを説明をする、ZMP ロボライフ事業部長の龍健太郎さん。

また、街の中での個人の移動以外の活用方法として、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために一時休園していた千葉市内の動物公園と連携。カメラ付きのラクロを園内周回させて、利用者はインターネットでつないだパソコンなどの画面で動物たちを見るという体験会も企画した。この時は、遠隔操作でラクロを動かしたい方向へ動かすことも利用者に体験してもらった。

「自分で操作するというゲーム性を持たせて、楽しんでもらいました。とても好評で、休園日の美術館や博物館でもできないか、というような相談も来るようになりました」と龍さんは振り返る。

さらに兵庫県姫路市で、同市が主催する自動運転ロボットを使った社会実験に参加し、JR姫路駅と、そこから約1キロメートル離れた世界文化遺産の姫路城との間をラクロに乗って移動したり、姫路城をぐるっと周回したりできる体験会を開催した。今後も同様に、観光地での活用も広めていこうとしている。

歩行速ロボの兄弟もいます

また、ラクロには、モノを運ぶ宅配ロボット「DeliRo®(デリロ®)」と、まちの安全を守る警備ロボットの「PATORO®(パトロ®)」という兄弟ロボットもいる。デリロとパトロは人が乗らず、遠隔監視された自動運転で宅配をしたり、建物や街の巡回パトロールをする。パトロは無人巡回中に消毒液の散布も可能だ。

「新型コロナの感染拡大で、ホテル療養なども広まりましたが、人と人との接触を避ける際にもデリロやパトロが役に立つと思います。またこれからは、労働者人口も減っていきますので、自動運転のロボットが人手を補えるようになると考えています」。ZMPが目指すのは、人とロボットが共生する街“ロボタウン®”の実現だ。

実際、日本の政府としても無人の配送ロボが今後、社会で必要になると考えており、法律の整備などを進めているという。「日本郵便が行った実証実験として、麹町や靖国通りなどの公道でデリロを走らせました」と龍さんは説明する。

写真左から歩行速ロボ三兄弟のパトロ、デリロ、ラクロ。三兄弟ともに表情と音声でコミュニケーションを取ることができる。 写真提供:ZMP

サービスステーションとして、ガソリンスタンドとの連携も

ラクロは1時間の充電で約4時間の稼働が可能だ。電動のため、当然CO2も排出しない。家庭の太陽光発電でつくった電気で走らせることができれば、持続可能な未来に貢献するモビリティとなる。

「私たちも当然、脱炭素社会の実現を目指しています。ラクロの普及には、サービステーションも必要なので、今はあるエネルギー会社との連携も進めようとしています。ガソリンスタンドの一角をラクロの拠点にして、そこから利用したり、充電したりできるようにする計画です」

充電中のラクロ。1時間の充電で約4時間の走行が可能。このラクロにはシルバーのメガネをかけた。

また、ラクロやパトロの活用方法として「太陽光発電のメガソーラー施設での見学用モビリティや、日常の監視用に使うことも考えられます」と龍さんは話す。

子どもに受け入れられることの大切さ

最後に、これからラクロをどのように広め、社会に役立ててもらいたいのか、そのビジョンを龍さんに尋ねてみた。

「ラクロは街になじむよう、擬人化し、目をつけて表情を出し、AI技術で話すこともできるようにしました。それで実際に街に出してみると、子どもたちが『かわいい』『面白そう』と予想以上に寄ってきて、見てくれたんですね。そうすると親も見てくれるし、街に溶け込む感じがしました。子どもがおじいちゃんやおばあちゃんを連れてきたりもして、新しく広めるためには、子どもの視点は大事だと学びました」

「直接利用する高齢者だけでなく、子どもにも受け入れてもらうことが大切だとわかった」と話す龍さん。

「高齢化社会、人手不足、そして今ですと感染症など、いろいろな社会問題があり、安心して暮らせる社会づくりにロボットは貢献できると考えています。ただ、それも単独のロボットだけでは実現できないので、IoT(*2)と組み合わせて役割の違うロボットを複数で動かせるようにマネジメントしていく必要があります。半径1、2キロメートルくらいの単位で街を捉え、人とロボットが寄り添える『ロボタウン』づくりに貢献したいと思っています」

自然エネルギーの自家発電が当たり前になる、そんな未来に、ラクロも“笑顔”で活躍しているに違いない。

*2 Internet of Things(モノのインターネット)の略。従来インターネットに接続されていなかったさまざまなモノがネットワークを通じてサーバーやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換をする仕組みのこと。

ZMP佃BASEに置いているラクロに乗る龍さん。

ZMP・ラクロHP

https://www.zmp.co.jp/products/lrb/rakuro