環境省のレポートによれば、ファッション産業の原材料調達から製造段階までに排出される二酸化炭素排出量は約90,000kt、水消費量は約83億m3。服1着あたり換算をすると二酸化炭素排出量は約25.5kg、水消費量は約2,300ℓになるそうです。また、国内でゴミとして廃棄される服の量は年間で約508,000t、一部は再資源化されますが、95%にあたる484,000tが焼却・埋め立て処分されています。これは一日換算すると1,300tにもなります。

脱炭素社会、持続可能な社会に向け、ファッション産業が多くの課題を抱えている中、1966年の創業以来、地球や自然との関わり方を模索してきたアウトドアブランドのザ・ノース・フェイスは、現状をどのように打破しようとしているのかを取材しました。

ザ・ノース・フェイスが柱として取り組んでいるのは、2008年に始まったGREEN IS GOODというプログラム。これは、ザ・ノース・フェイスを展開するゴールドウイン社全体に及ぶもので、GREEN MATERIAL、GREEN CYCLE、GREEN MINDの3つをキーワードとした取り組みです。

GREEN MATERIALとは、選ぶことが未来に繋がる素材のこと。リサイクル可能な繊維、成長が早い植物を原料に利用し、環境負荷を抑えようとしています。ペットボトルを原料にして再生したリサイクルポリエステル、成長が早いために耕地面積が少なくて済むユーカリを原料としたマキシフレッシュ、計画植林された木材を原料としたテンセル リヨセル繊維などが該当します。

また、2019年にはスパイバー社との共同でブリュード・プロテイン(発酵タンパク質)を使った「ムーンパーカ」を発売。ブリュード・プロテインは、微生物を活用し、主に植物由来の糖類(グルコースやスクロース)を原料として、発酵生産によって作られます。石油などの化石燃料に頼るということがなく、生産時のエネルギー消費、環境負荷が小さいことも特長です。ブリュード・プロテインの生産量が増えてコストが下がれば、石油由来の化学繊維に頼らなくても良い社会が訪れるかもしれません。

2019年に発売されたムーンパーカ。植物由来の原料を下に微生物発酵というプロセスを経て作られるブリュード・プロテインという素材が使われている

GREEN CYCLEとは、使用後の製品を回収、再生する取り組みです。ゴールドウイン社が展開するザ・ノース・フェイスや、ヘリーハンセンなどの店舗では、使い古したウエア(他社製品のウエアも可。シューズやバッグなどのアクセサリーは除く)をレジで回収し、回収実施店で使用できるクーポンを発行するサービスを行っています。回収したウェアは、日本環境設計社が展開するBRINGシステムを通して、リサイクル、リユースされるのに加え、ポリエステルやナイロンといった石油を原料とした製品は、石油から製造した場合と同レベルの高純度な原料に再び戻すリサイクル技術によって再生。再びゴールドウイン社製の製品の原料となります。

現在の高機能のアウトドアウエアにはナイロンやポリエステルが欠かせないものですが、ウエアから素材を調達することで、環境への負荷を低減しています。

店舗内に置かれたウェア回収用のボックス

そしてダウン(羽毛)製品については、回収、精製して、GREENDOWNという名称で、ダウンウエアをはじめとする新たな製品の原料として利用されます。

ザ・ノースフェイスのリサイクル・ダウンを手掛けているのは、国内屈指の羽毛メーカーである河田フェザー。超軟水を使って羽毛の細部までを徹底的に研ぎ洗いすることで、安全で高い保温性のある羽毛に生まれ変わるのだそうです。そもそもダウンという素材は、元の品質さえ高ければ、100年以上使い続けることが可能だとのこと。リサイクルが当たり前になれば、焼却する際に発生する二酸化炭素も、原産国から日本に輸送する際の二酸化炭素も抑えることができます。

グリーンダウンを採用した定番商品の1つ「ジップインマグネアコンカグアジャケット」

ちなみにこのGREENCYCLEでは2016年度で2400kg、2020年度は3855kgのウエアを回収しているとのこと。

GREEN MINDとは、大切に使うということ。地球環境への負荷を減らすためには、消費者に購入した商品を1日でも長く使ってもらうことが重要です。そのために、一過性のトレンドを追うのではく、ロングライフなデザインを目指しているのだそうです。渋谷PARCO内のザ・ノース・フェイス ラボで行っている3Dスキャンシステムを利用したウエアカスタマイズサービス、141CUSTOMS(ワンフォーワンカスタムズ)もその一環。ひとりひとりの体型情報に合わせたパターンを作製するだけでなく、生地やファスナー、ボタンなどのカラーのカスタマイズが可能。世界に1着の自分の個性にフィットしたものを作り、長く使う。そのためのカスタマイズサービスなのです。

また、ザ・ノース・フェイスではブランド設立当初より、プロダクトのリペアサービスを実施。これも1つのプロダクトに愛着を持ち、長く使ってもらうためのものです。現在は、月に1200着程度のリペアを富山工場で行っているそうです。

新しい素材の開発も含めて、原材料調達から製造段階までにかかる環境負荷を低減させながら、リペアを繰り返しながら製品を長く使ってもらい、最終的にはリサイクルをして素材として再利用する。もちろん回収量やリサイクル率にはまだまだ課題があるものの、独自の循環システムによってサステナブルな未来の実現を目指しています。

リペアを繰り返して1つのプロダクトを長く使う。それもサステナブルな未来に繋がる行為

ザ・ノース・フェイスを展開するゴールドウイン社は、地球環境改善に向けた3つの課題と目標値を掲げています。

1つは環境負荷低減素材への移行です。ブリュード・プロテインの開発拡大、リサイクル素材への転換推進を図り、環境負荷低減素材の使用率を2025年度に60%以上、2030年度に90%以、2050年度に100%とすることを目指しています(2020年度は28.6%)。

2つ目は再生可能エネルギーへの転換です。既にザ・ノース・フェイスの複数の店舗で再生可能エネルギーによって発電された電力を導入していますが、これを2025年度までに国内全事業所、2030年度までに全事業所と直営店、2050年度までにサプライチェーンまで拡大することを目標としています。いくらリサイクル素材を活用しても、商品を作り、運ぶためのエネルギーにも目を向けなければ、カーボンニュートラルは目指せないからです。

3つ目がファッションロス・ゼロ。製品・材料廃棄物はファッション業界の大きな課題ですが、これを2030年度までにゼロにできるように、商品企画、生産システム、流通などあらゆる面の見直しをしているそうです(ゴールドウイン社の廃棄物排出量は2016年度が140t、2020年度が65t)。

ザ・ノース・フェイスのサステナブルな未来を実現するための活動は、環境に配慮したものづくりだけには留まりません。アウトドアブランドとして、人が自然とより良い関係を作るためのさまざまなサポートを試みています。

例えば2021年3月には、対象商品が販売されるごとに1本の木を植える「ONE PRODUCT ONE TREE meets BACK TO SCHOOL Campaign」というキャンペーンを開催。キャンペーンを通して約4,100個のバックパックが販売され、約4,000本が北海道・沼田にある三井物産の森に、約100本が神奈川県・丹沢菩薩峠に植樹されました。

ひとりひとりの小さな選択が、未来に繋がることを体感できるイベントだったのではないかと思います。

ザ・ノース・フェイスのスタッフと契約アスリートたちが、自らの手で丹沢菩薩峠に植樹。その成長も見守っていくそうです

ザ・ノース・フェイスが協賛する2022年2月に開催予定の湘南国際マラソンは、世界初となるマイボトルマラソン大会。給水ポイントやゴール後にカップやペットボトルによるドリンク提供を行わず、ランナー自身がボトルを携帯して走るという新しいルールのもとに運営されます。

マラソン大会では、大量に出るプラスチックゴミが問題になっています。湘南国際マラソンも今まで、毎年25,000人のランナーに対して、給水のために水とスポーツドリンクを合わせて31,500本のペットボトルと、500,000個の使い捨てカップを用意し、ゴール後には26,000本のペットボトルを配布していましたが、これがゼロになります。

さらに、参加Tシャツやスタッフウェアには、ペットボトルリサイクルによる繊維を使用するという配慮もされています。

今後、マイボトルを持って走るマラソンが広がっていけば、日本中、世界中でかなりの量のペットボトルの消費を減らすことができるでしょう。大会参加をきっかけに日常的にペットボトルの利用を減らす人も増えるはずです。

マイボトルやマイカップを持って走るマラソンが定着すれば、プラスチックゴミを削減することができる

カーボンニュートラルの実現のために、さまざまな取り組みをしているザ・ノース・フェイス。今後もアウトドアシーン、ファッションシーンの脱炭素化、持続可能化を牽引していってくれることを期待しましょう。