街で見かけることが増えてきた電動キックボード。きちんと交通ルールを守って利用すれば、これからの高齢化や人口減少社会にも有効な交通インフラの構築につながるかもしれない。
あっという間に乗れる電動キックボード
「意外なほど簡単に乗れる!」。それが電動キックボードのLUUP(ループ)に初めて乗った記者の第一印象だった。片足を車体に載せ、もう一方の足で数回、地面を蹴って前に押し出し、アクセルレバーを押すとスーッと走り出す 。
あとはハンドルの親指がかかるところにあるアクセルレバーでスピードを調整し、ブレーキは自転車と同じようにレバーを握るだけ。立ったまま乗っているので視界もよく、いつもとはちょっと違った角度から街の風景を楽しめる。
ブレーキをかけて止まればすぐに地面に足を着けられて、サドルをまたぐ必要がないので、乗り降りは自転車よりも楽だ。30分程度の利用ですっかり慣れ、「いつも乗っています」という気分になってしまった。
LUUPは、Luup社(以下、車体やサービスの表記ではLUUP、社名の表記はLuup)が東京、大阪、京都、横浜で展開しているシェアリングサービスで、アプリ登録すれば、街じゅうにある「ポート」と呼ばれる車体置き場から簡単に借りることができる。
アプリ内検索で示される最寄りのポートで借り、事前に指定しておいた目的地近くのポートで返すだけ。利用料金の支払いはクレジットカード決済で、アプリ内で完結する。
ポートの数は現在、約700か所。電動キックボードのほか、小型電動アシスト自電車も同シェアリングサービスで展開しており、合わせて1000台以上を配車している。
利用には運転免許が必要
ここで改めて電動キックボードを紹介してみよう。LUUP以外にも電動キックボードはたくさんあり、キックボードにバッテリーとモーターを付けて電動で動くようにした乗り物だ。試しに通販サイトのAmazonで検索してみると、数万円で販売されているものもあった。
ただし、日本の公道で電動キックボードに乗るためには運転免許(原付免許)が必要だ。LUUPなどの特例電動キックボードを除く電動キックボードは法令上、原動機付自転車、いわゆる「原付」に該当する。
ナンバーを取得し、バックミラーを付け、ヘルメット着用などの条件を満たした上で車道を走行することが義務となる。ただし、現実的にはこういった条件を満たさない車体が歩道を走行していたり、一方通行の道路を逆走していたりなど、違反走行を見かける場面もある。
日本では黎明(れいめい)期とも言える状況の電動キックボードだが、アメリカやヨーロッパなどの先進国では一般化が進み、街での乗り物として普及が進んでいるという。
街じゅうを「駅前」化するインフラに!
Luupでは、「小型、一人乗り、電動」の新しいマイクロモビリティを普及させ、「街じゅうを『駅前化』するインフラをつくる」というミッションを掲げている。
どこからでも誰でも簡単に利用できる移動手段が普及すれば、「駅前」だけに店やオフィスを集中させる必要もなくなり、駅を起点にしたワークスタイルやライフスタイルからも解放されて、「駅前」の利便性が街じゅうに広がるというイメージだ。
その第一歩としてのLUUPのシェアリングサービスだが、実は電動キックボードにはこだわっていない。むしろ、2輪の乗り物ではなく、4輪で、必要に応じて椅子も使えるような車体をつくり、ポートに配備していこうとしている。電動キックボードでは、高齢者や足腰が弱った人が利用しにくいためだ。
「介護士版Uber」事業の失敗から始まった
Luupを2018年に創業し、代表取締役社長兼CEOを務める岡井大輝さんは当初、主婦や元介護士らがスポットで家庭の介護活動に従事できる「介護士版Uber」を事業として展開していた。
1993年生まれで、20代半ばで起業した岡井さんだが、自身の祖母が認知症になり介護の問題に直面した経験がある。高齢化社会が今後も進む中、国の保障や介護サービスに頼るだけでは限界も出てくると、数時間だけ働きたい主婦や元介護士と、数時間だけ家族の面倒を見てほしい家庭をつなぐマッチングサービスとして「介護士版Uber」に挑戦したのだった。
ただ、この事業はうまくいかなかった。その理由を岡井さんは、「駅やバス停起点の商圏内ではマッチングが十分に行えず、日本の今の交通の仕組みでは、人が人の元へ行く事業は成り立たないことと判明した」と分析する。
そして、「『働きたい時に働く』『来てほしい時に来てもらう』というC to C(個人間取引)のマッチングサービスを行うには、駅やバス停起点ではなく、どこからでも誰でも移動ができる新しい交通インフラがまずは必要だ」という結論から、新たに立ち上げたのがLUUPのシェアリングサービスだ。
岡井さんは「高齢化に加え、人口が減少していく社会では特に必要とされるインフラになるはずです。また、日本の地方では車の運転ができなくなったご高齢者の移動手段がないということも深刻になっています。その課題を電動マイクロモビリティで解決したいと考えています」と続ける。
「小型、一人乗り、電動」にこだわるのは、①小型であることで扱いやすく、街中に多く置くことができる、②一人乗りであることで、別の運転手の必要がない(個人で効率的に移動ができる)、③電動であることでCO2を排出しないなど環境によく、IoT(*1)との接続によって速度や走行場所の制御ができ、安全性を確保できる、という理由があるためだ。
*1 Internet of Things(モノのインターネット)の略。従来インターネットに接続されていなかったさまざまなモノがネットワークを通じてサーバーやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換をする仕組みのこと。
実態に見合った交通ルールが適用されるために
先に電動キックボードは日本では「原付」扱いとなると紹介したが、新しく生まれた車体であることから、安全に走行するためには「原付」でよいのかという議論もなされている。例えば、原付としての電動キックボードは車道端に自転車レーンがあってもそこは走行できず、車道を走らなくてはいけない(*2)。
新しい電動マイクロモビリティとして、安全に誰でも利用できるインフラにしていくため、Luupをはじめとする国内外の電動キックボード関連の企業が参加する「マイクロモビリティ推進協議会」も2019年に設立し、利用者への安全運転指導や実態に見合った交通ルールが適用されるように提言などを行っている。
*2 2021年12月23日付の報道各社のニュースによれば、警察庁は電動キックボードに関し、運転免許を不要とする道路交通法の改正を検討中。性能上の最高速度が時速20キロ以下であれば、免許は不要、ヘルメットの着用は努力義務とされ、自転車専用レーンなども走行できるようになる。ただし、16歳未満の運転は禁止となる。2022年の通常国会での改正案提出を目指しているという。
現在、Luupは新事業特例制度の認定を受け、Luupが展開しているシェアリングサービスの電動キックボードは「小型特殊自動車」扱いにされている。
このことでヘルメットの着用は任意となり、自転車レーンやサイクリングロードの走行が可能になる。ただ、一方で最高速度は時速15キロまでに制限される(原付の法定最高速度は時速30キロ)。
実際に利用してみた感想としては、ヘルメットの着用が任意ということで、ちょっとした街の中での移動に利用しやすくなるだろうと感じた(もちろん、着用したほうが安全だが)。また、アクセルを全開にしても時速15キロ以上は出ず、時には自転車に追い越されることもあったが、風を感じながら自動で走行できたためか、あまり気にならなかった。
ただ、この小型特殊自動車としての扱いも実証実験の一環であり、今後、どのようなルールが適用されるかは未定だ。
「密」を避けたいときの移動手段にも
LUUPは現在、東京では駅と会社の間の移動や営業中の移動、日常的な買い物などによく利用されている。また、横浜では観光地巡りなどにも使われているという。
利用者からは「満員電車を避けられるのもお気に入りのポイント」「駅からちょっと離れたお気に入りの店に、気軽に行けるようになった」といった声も上がっている。
写真及び図版提供:LUUP https://luup.sc