脱炭素の勢いが
止まらない。
脱炭素の勢いが止まらない。ブームではなく確実にトレンドとなった。
私が書く原稿やお話しするセミナーのタイトルに、「待ったなしの脱炭素社会」を求められることが多い。このフレーズが政府だけでなく多くの企業や自治体に、“すっと腑(ふ)に落ちる”ようになったきっかけは、昨年の10月26日にある。
菅首相が初めて国会で行った所信表明演説の日付である。この日、日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを実現することを宣言した。日本のエネルギーにとって近年最も大きな出来事となり、時代の転換点と言ってよい。

とはいえ、舵を切ったことは評価できる。日本人の特性として、政府が決めると一気にそちらになびく。日経新聞は、宣言前の10月初めから脱炭素キャンペーンを行い、「脱炭素を進めない企業に将来はない」との金融サイドの厳しい考え方の紹介などで紙面を埋め続けている。新聞にとって最重要の元旦一面トップに、「脱炭素の主役 世界競う 日米欧中 動く8500兆円」の記事を持ってきたのには驚かされた。
企業は、やや戸惑いながらも脱炭素へのシフトを進めている。
最も有名な活動が『RE100』で2050年までに企業が使う電力すべてを再エネで賄う目標を持っている。アップルやナイキ、イケアなど世界の超有名企業280社以上が参加し、日本企業もつい先日50社に達した。大企業のことなどとうかうかできないのは、RE100企業は自らのサプライチェーンにも脱炭素を要求していることである。RE100への参加は決してPRがメインではない。例えば、CO2を出して作った製品は、いずれ市場から淘汰される、企業の死活問題とわかっているからである。
RE100の中小企業、自治体版である「再エネ100宣言RE Action 」の参加団体が、10月26日以来、3倍増になったのもうなずける。
自治体の動きも急である。
環境省が進める「2050年二酸化炭素実質ゼロ宣言」を表明した自治体が、2月4日現在で、29都道府県、129市など合計226自治体となった。人口を合わせるとおよそ9,505万人と日本の4分の3になる。
あふれるほどの再エネで創る「理想の地域」
私が再エネを積極的にビジネスにし始めたきっかけは2011年の原発事故だった。ドイツに2年ほど暮らしたこともあって、分散型の再エネを原発の代わりにしたり、地域を元気にしたりが可能だと考えた。地域の人たちと再エネ利用による地域活性化を一緒に熱く語ることも多く、今に至っている。
これから描く「あふれる再エネによる理想の地域」は、決して夢物語として綴るものではない。時間は少々かかっても必ず達成できると感じている。それは、脱炭素社会の実現、そのための再エネの拡大と完全に重なる。
脱炭素、あふれる再エネの社会は、ポジティブなのである。
以下、想像の世界へ。
その地域で使う電気は、すべて地域内の再エネ発電施設からやってくる。太陽光発電を中心に、最近は弱い風でも回る風車も増えてきた。また、熱も使える小型の木質バイオマスや生ごみなどを使うバイオガスコジェネがいくつか見える。山間では、小さ目の水力発電も長く稼働している。
太陽光発電はコストダウンが進み、手軽に取り付けられるようになった。公共施設やオフィスビルや工場は当然で、ほとんどの家庭の屋根にも太陽熱施設と並べて設置されている。基本は自家消費である。「自分で作って自分で使う」、よく言われるプロシューマーに多くの人や会社がなった。遠くまで電線で送るよりずっと無駄がなく効率的で、また系統に負担が少ないため、全体としてコスト削減と需給安定になる。
蓄電池は、だいぶん前にメリットが設備費を上回る「蓄電池パリティ」を達成した。定置型の蓄電池もあるが、EVという“走る蓄電池”の利用が進んでいる。電気を貯める場所と使う場所が自由に選べることは、地域での電力融通や災害時などのBCPにも有効だと誰もが知っている。
ここでは発電の場所と使う場所が近接している。ことさら「地産地消」を言わずとも、自然にそうなるのが当たり前かもしれない。
再エネ関連の事業は、例えば、パネルの設置を行う施工会社、管理とメンテンナス業者、電力の調達と供給の地域新電力、さらに融資を行う地元金融と、地域内の経済循環の仕組みが完成している。EVのシェアリングと自動運転、VPP利用を行う会社も活動を始めた。
再エネ価値は高まる一方で、再エネが豊富なこの地域には、それを求めてやってくる企業が少なくない。こうして、再エネによって地域は活性化し経済的にも豊かになった。明るいまちは希望にあふれ、移住してくる家庭も増え、すっかり賑やかになった。