ソーラーによる
自給生活時代の幕開け

ドイツといえば再エネというイメージの人が多いと思いますが、良くも悪くもイメージ先行で語られがちです。とりわけドイツのソーラーエネルギーの実態については日本ではあまり知られていないように思います。

ソーラーといえばメガソーラー。ときに山林を破壊しつつもグリーンなエネルギー源として普及している。しかしこれはソーラーエネルギーの限られた負の側面を捉えたものです。もちろん日本ではそういった課題を解決する必要に迫られていますが、日本と並びソーラーエネルギーの普及に大きく貢献してきたドイツではそうした問題はあまり知られていません。そこで、ドイツのソーラーエネルギーの普及と活用についてご紹介します。

メガソーラーよりルーフトップ

2020年時点、世界のソーラー発電容量708GWのうち8%、54GWがドイツにあり、国別では日本に次いで4位につけています。設備総数は200万基近くあり、数で見ると、500kW p以上の設備はそのうちの1%以下、全体の61%が10kWp以下、つまり家庭のルーフトップソーラーになります。また100kWp以下も含めると全体の97%を占め、ドイツの主流はルーフトップであることがわかります。(注1)

近年は再エネ電力を使いたいという企業が増えており、そうした企業のPPA向けメガソーラーが増えつつありますが、2020年でも設置されたソーラーシステムの平均サイズは29kWp、家庭のルーフトップが牽引していることがわかります。

注1:Fraunhofer ISE [2021]” PHOTOVOLTAICS REPORT”

ドイツのソーラーシステムの導入状況

出典:Fraunhofer ISE [2021] ” PHOTOVOLTAICS REPORT”

普及の理由は安い発電コストと高い電気代にあります。ドイツの2021年の家庭の電気代の平均は31.89セントとEUで最も高い水準にあります。日本でも導入されている固定価格買取制度の支払いのための再エネ賦課金は2020年は6.5セントと電気代の20.4%を占めています。(注2)ドイツの再エネ普及はこうした市民の負担によって支えられてきました。その結果、ドイツの電力消費者は誰であっても電力ミックスの65%はFIT由来の電力、つまり再エネ電力を使えるようになっています。(注3)再エネ以外の電力は35%しかありません。再エネ賦課金はドイツの再エネの普及に確実に貢献してきたと言えます。

話を電気代に戻しましょう。発電コストが下がるとFITの買取価格も下がります。当初は45セントくらいで始まった買取価格も2010年ころには20数セントまで下がりました。他方で、ドイツの電気代は上昇し続け、2011年ころにはついに逆転します。これは、ソーラーの電気を20セントで売って、外から21セントで電気を買うようなもので、ソーラーの電気は自分で使う方がトータルでお得になりました。この頃からドイツではソーラーの電気を自家消費する家庭が増えていき、また法律も自家消費が得をするように改正されるとともに、系統安定作にも力を入れ始めます。

例えば、家庭のソーラーの電気は今もFITの支援を受けることができますが、売電できる容量は設備容量の70%を上限とすることが定められています。こうすることで発電ピーク時の急激な発電量の増減によって系統の電力が乱れないようにしています。

そして、2015年から2016年ころにはソーラーと蓄電池を組みあせた電力コストが電気代を下回るようになりました。ドイツの家庭が家を新築する場合、特に南ドイツではソーラーと蓄電池を導入して自家消費をしないと電気代を損する状況になったわけです。もちろん余剰電力のFIT買取は続いていますが、買取額も7.5セント程度とほとんどお得感はありません。ドイツのエネルギーシンクタンクEuPDは蓄電池なしのケースではソーラーパネルのもとが取れるのは21.6年かかると試算しています。これでは長くかかりすぎて魅力的とはいえません。(注4)

注2:ただし、2021 年は 2020 年の電力卸市場価格の高騰を受け、3.7 セントに下がります。 もちろん下がっても再エネの比率が減るわけではありません。
注3:正確には FIT とともに市場プレミアムの支援コストも含まれます。
注4:Peter Hannen [2021] “High PV system prices, falling FITs make small solar unviable in

こうしたこともあり、ドイツでは自家消費メインのソーラー+蓄電池の導入が急速に進んでいます。ドイツでソーラーの設置が最も落ち込んだのはFITの買取価格が一気に引き下げられた2014年ですが、2020年には新規設置容量が4.9GW、2021年も5GWを超える新規設置が予測されています。そして、ソーラーを設置するご家庭の半分以上が蓄電池も一緒に設置しており、2021年末には累計で30万台を超えるでしょう。ドイツでは家を建てるならソーラーと蓄電池は外せないのです。

エネルギーも自分たちで作り、自分たちで使う時代

ソーラーと蓄電池が普及すると、生活スタイルは変わらなくてもエネルギーの使い方は劇的に変わります。家庭菜園など、すべての食材ではなく、食材の一部を自給している方は多いと思います。ソーラーエネルギーも自分の家のすべての電力を賄うわけではなく、目指すは「無理せずできる限り」です。

ただし家庭菜園と異なるのは、エネルギーは人間の代わりにデジタル技術が手間ひまをかけて最適化してくれる点です。ドイツのホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)は年々進化を続けており、最近は自家消費に最適化し、よりグリーンなエネルギーを自給しようというニーズ向けの商品が増えています。

例えばソーラーパネルだけを持っている場合、自給率は30%しかありません。ここでいう自給率は「自宅で消費する電力のうち、どれくらいを自分で発電した電力で賄っているか」という意味です。ソーラーパネルに蓄電池を組み合わせると、70%まで自給率を上げることができます。ドイツの平均的な家庭の年間の電力消費量はおおよそ4000kWhなので、2800kWh分を自分で発電したグリーン電力で賄うことができます。さらに、暖房・給湯用ヒートポンプを自給率は80-90%まで高めることができます。EV充電のためのウォールボックスも持てば、自給率は95%まで高めることができます。

最後に今はドイツの法律で難しいですが、余剰電力をご近所で融通することができるようになればコミュニティの自給率を100%まで高めることができます。ドイツの家庭のソーラーパネルは平均で7kWp程度であり、最近は大型化して新築は10kWpあります。10kWpの太陽光であれば年間10000kWh程度発電できるので、一般的な家庭2.5世帯分は発電しています。ですので、近くのどの家庭の蓄電池に今空きがあるかがわかれば、余った電気をそちらに送って充電すればよいことになります。

とはいえ、今のところドイツで多いのは、ソーラーパネルと蓄電池であり、数は少なくなりますがヒートポンプの組み合わせです。EVを持っている家庭はまだまだ少なく、ウォールボックスを持っている家庭も多くありません。

ソーラーパネルと様々な機器を組み合わせることで自給率を上げることができる
出典:Wegatechウェブサイト“DAS AUTARKE HAUS – SO WERDEN SIE ALS EINFAMILIENHAUSBESITZER UNABHÄNGIG”より作成

スマートホームソリューションは百花繚乱

ドイツの新築のご家庭でソーラーパネルを導入する場合、蓄電池とHEMSは欠かせない存在です。特にHEMSの開発競争は活発で、ソーラーシステム、特にパワコンのメーカーや蓄電池メーカー、電力小売まで様々な企業がHEMSを提供しています。

HEMSの基本的な機能は、だいたい同じです。ソーラーパネルの発電量と家庭の電力消費をモニタリングしながら余剰電力をまずは蓄電し、さらに余れば系統へ逆潮流して買い取ってもらいます。最近はこれにヒートポンプとスマートコンセントなどを組み合わせるケースも増えてきました。

ヒートポンプは蓄熱タンクと組み合わせることで安価で大きなエネルギー貯蔵システムとなるため、電力を熱に変える「セクターカップリング」の1つとして注目されています。また、ヒートポンプではルーフトップソーラーの電力を利用するだけでなく、系統混雑が発生している時は系統運営者の指示で公共系統からの電力供給をストップするシステムも販売されています。一般的な家庭では1000リットルくらいの蓄熱タンクを持っており、ヒートポンプを停止しても暖房は稼働できるようになっています。HEMSが翌日の自分のソーラーパネルの発電量、全国の再エネ発電量、家庭の電力消費予測などのデータを用いてソーラーパネルの電力を蓄電池、ヒートポンプ、スマートコンセントにインテリジェントに振り分け、系統混雑が発生すると予想される場合は予め蓄熱タンクに大きな熱エネルギーを蓄えておくのです。

その結果、自給率は90%まで高められることになります。これは逆に言うと系統電力需要が少なくなることであり、結果的に家庭がソーラーシステムと蓄電池を導入してゆくと系統は安定していきます。政府も系統運営者もソーラーパネルと蓄電池などの組み合わせによる自家消費システムは系統安定化策の一環として歓迎しています。ソーラーエネルギーは邪魔者ではなく、系統システムの重要な構成要素なのです。

未来に向けた様々なアイデア

このように、ドイツ国内ではHEMSは様々なデータを用いながら自給率の向上を図ってゆくように設計されています。そのシステムはオンラインでアップデートされますますインテリジェントになっていきます。もちろん各家庭で節電やソーラーパネルが発電している時間帯を見計らって洗濯をするといった自主的な行動は素晴らしいのですが、スマートホームに住んでいる人はそのようなことをいちいち気にする必要はありません。基本的にはHEMSが自動的に判断してくれます。

そこで、将来スマートホームやコミュニティ再エネはどのようになっていくのか、アイデアを少しご紹介しましょう。

まずスマートコンセントが普及すると家電が自動的にオン・オフできるようになります。洗濯機や食器洗い機、エアコンやお風呂の給湯などはすでにスマホなどで遠隔操作可能なものが出ていますが、今後は自分の家のソーラーが発電しているときや、系統でも再エネがより多く発電しているときに稼働するようになり、再エネの電力を効率的に使えるようになります。

しかし、こうした用途がより期待されているのはEVです。家電や家庭の蓄電池は1つ1つが小さいのでデジタル化して自動操作できるようにすることの費用対効果はあまり高くありません。これに対してEVは搭載している蓄電池の容量が大きいため、より系統や家庭の再エネの発電状況に応じた充電によって系統安定に貢献することが期待されています。

今のところドイツにはV2H(EVの電気を家庭で使う)やV2G(EVの電気を系統に逆潮流する)に対応しているEVはほとんどありません。ドイツの自動車メーカーがV2Hを嫌がっていたためです。今の電力料金体系では、公共ポストや自宅のウォールボックスで充電した電気を家庭で使っても得はできません。充電にかかる電気代が高すぎるためです。EVの電気を使うことがお得なのは、自宅のソーラーの電気を使う場合のみですが、一度EVに蓄えられてしまうと電気の区別ができません。また、以前はV2Hによる蓄電池の劣化を気にするEVメーカーが多かったことも理由として挙げられます。

しかし事情は変わりつつあります。蓄電池の技術的進歩とV2Hの可能性が幅広く認知されつつあることでニーズが生まれてきています。クラウド蓄電池と呼ばれるモデルでは、自宅で発電したグリーン電力のうち、系統へ逆潮流した分を電力小売が買い取り、同じ量の電力を公共充電ポストから充電することができます。こうすることで仮想的に自宅のグリーン電力をどこでも充電できるようになります。

また、電力小売会社などが充電ポストを遠隔操作し、再エネ電源が多く発電しているときにより高速に充電し、発電が少ない時は充電速度を落としたりV2Gを行えばEVの蓄電池を再エネの変動に対する柔軟性として利用できます。このEVの柔軟性としてのポテンシャルは現在非常に期待されており、その実現に向け託送費や再エネ賦課金の制度の見直しが検討されています。

また、蓄電池は周波数の変動を抑えるために秒単位での調整を行う調整電源としても利用できます。この場合、家庭やEVの蓄電池はよりコストのかからないタイミングで充電するだけでなく、能力を提供することで収益を上げることもできます。日本ではゾネンが蓄電池をアグリゲートして調整電源として活用している例が有名ですが、これもやはりコストの問題で一般的とは言えずニッチな取り組みであり現在のメインは調整電源用のMW級の大型蓄電池、将来はEVがメインとなるはずです。再エネとは話がずれましたが、EVには大きな期待が寄せられています。

最後に、コミュニティソリューションについて触れておきましょう。先程、コミュニティ

グリーン電力を融通すればコミュニティレベルで100%の自給も夢ではないと言いました。HEMSを使って自家消費を最適化しても余る電力を近所で融通することで、地域での自家消費(地産地消)を達成する方法です。10軒の家庭がすべてソーラーパネルを導入していれば、25軒分の電力を発電します。その電力を隣家の蓄電池などにうまく配分していく方法です。ここでのネックは、誰が電気を余分に持っており、誰が電気を必要としているかのデータの集約と融通の仕組み、つまり取引の制度設計です。ドイツの法律はこのようないわゆるP2Pを想定していません。現状ではP2Pは技術的にも法的にも実施困難です。

そこで実証実験「Pebbles」ではP2Pの課題を検討しました。電力が余りそうな家庭は電気を売りたい金額を設定し、電気を外から買ってくる必要がある家庭は電力を買いたい価格をプラットフォームに登録し、プラットフォーム上で取引を行います。この取引自体はシステムが自動的に行うので、自分で売りたい家庭や解体家庭を探す必要はありません。この実証では、こうした仕組みが機能するかを検証するとともに、こうした取引が経済メリットを持つにはどうすべきかを検討しました。例えば、電力を運んだ距離に応じて託送費の額を変える距離別託送費はこうしたP2Pを活性化するために欠かせないと判断されたそうです。

ソーラーとデジタルで常識が変わる

ここまで説明したことをまとめると、ドイツの再エネの中でもソーラーは家庭の屋根上が牽引しています。オフサイトコーポレートPPAなどで大型の野立てソーラープロジェクトも増えつつありますが、やはり今後もルーフトップソーラーが中心になるでしょう。

ドイツでこのようなルーフトップソーラーが普及する理由は、ソーラーの自家消費が外から電気を買うよりお得だからです。しかも、インテリジェントなHEMSを使うことで蓄電池やヒートポンプなどと組み合わせてもお得になります。

こうなると家庭のエネルギーはほとんどが自給することができるようになります。その結果、電力系統に流れる電力の量が少なくなり、系統運営は楽になります。デジタル化されたHEMSと系統運営者がデータをやり取りすることで、系統混雑管理も楽になります。またヒートポンプやEVが普及すれば自家消費だけでなく、系統の柔軟性としても利用できるため、こうした仕組みは再エネを中心としていながら安定供給を乱すものでなく、貢献するものとして見られています。

他方で、ドイツの法律はHEMSを用いたコミュニティソリューションは念頭に置いていなかったため、自家消費をさらに一歩進めた地産地消の実現にはまだ時間がかかりそうです。

最後に、恐らく読者の方には、そうはいっても太陽光は冬に発電しないではないかという疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。しかしドイツの再エネの主力は風力であり、風力は冬に多く発電します。そのため、再エネ電力の発電量は冬よりも夏のほうが少なくなっています。もちろん太陽が照らず、風が吹かない日が数日以上続くとまた別に対策が必要になってきますが、家庭でできるサステナブルなエネルギー利用としてはソーラーをメインとしたHEMSの導入であることは変わりありません。

西村健佑(にしむらけんすけ)
ベルリンにある市場・制度調査会社、Umwerlin UG代表。ドイツの大学院で修士課程取得後、10年以上ドイツでエネルギーに関する制度調査、市場調査を手掛けてきた。専門は再エネ、デジタル技術を活用した地方創生、地域に根ざしたエネルギー会社(シュタットベルケ)。2021年度成蹊学園サステナビリティ教育研究センターフェローなど、大学や研究機関との協力も多数。著書に『進化するエネルギービジネス(ポストFIT時代のドイツ)』(新農林社,2018年, 共著)など

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