神奈川県小田原市でソーラーシェアリングに取り組む小田原かなごてファーム代表の小山田大和(おやまだ・やまと)さん。エネルギーと農業のハイブリッドに挑戦中だ。

神奈川県の小田原駅から少し離れた幹線道路沿いにある「農家カフェSIESTA(シエスタ)」。こぢんまりとしたカフェで、地元産の食材で作ったランチプレートや唐揚げ丼、地元の酒蔵の酒粕や小田原のみかんで作ったジェラートなどがお客さんに人気だ。

食材もエネルギーも“自給100パーセント”にこだわった「農家カフェSIESTA」。店の前では「湘南小巻ファーム」の野菜を販売していた。

取材当日のクリスマスの特別ランチプレート。メインのコンフィには、神奈川・足柄の生産者が育てた健康な鶏を使用。味の濃い旬の野菜サラダ、滋味深いクラムチャウダーと全てに満足。

神奈川県伊勢原市で3代続く石田牧場が手がけるジェラート。上はおひるねみかんを素材に作った「湘南ゴールドラテ」。みかんの甘さとほのかな酸味がさわやか。下は地元の酒蔵がつくる酒粕が入った「自然栽培酒粕ジェラート」。クリーミーな味わいだ。

農作業に着るつなぎも似合っている小山田さん。農家カフェSIESTAにて。

そして店内の本棚には太陽光発電や再生可能エネルギー、地域づくりに関連する書籍がずらり。お客さんは地域の人ばかりではない。全国から太陽光発電や自然エネルギー、また地域づくりに関心のある人たちが集まってくる。

その理由は、このカフェが「食とエネルギーの自給・地産地消を目指している」からだ。食材だけでなく、カフェで使っている電気も100パーセント、太陽光発電で自給している。運営するのは、合同会社小田原かなごてファーム。以前から耕作放棄地などの地域の課題解決や再生可能エネルギーの普及に力を注いできていて、カフェはその活動の一環として2021年にオープンした。

始まりは地域の活性化

小田原かなごてファームの代表を務める小山田さんは、大学時代から小田原市の地域づくりに関わってきた。そこで培ったネットワークを通して、JR御殿場線の神奈川県側区間、通称かなごて沿線の活性化を考える異業種勉強会に参加。直面したのが、みかん農家の高齢化、後継者不足、それによる耕作放棄地の増加だった。

「実家は農家でもないですし、農業はどちらかと言えば嫌いでした」と笑う小山田さん。しかし、縁あって470坪ほどのみかん畑を借りて栽培することに。「経験も知識もないので、地元の農家さんに教わりながら、自分でも勉強しました」

自らみかん作りを経験することで、「農業は地域を形づくっている大きなインフラであり、これをなくしてはいけない」と実感した。そこでみかんの栽培や収穫に一般市民や学生の参加を募ったり、みかんをジュースやゼリー、サイダー、ジェラートなどに加工した販売する6次産業化、おひるねみかんプロジェクトに取り組み、みかん農家を盛り上げようと活動している。

耕作放棄地を借りて始めたみかん栽培。農薬を使っていないので、大きさや見た目は不ぞろいだが、みずみずしい味わいが癖になる。

おひるねみかんから生まれたゼリー。リピーターが多く、作ったそばから売れていくそうだ。

「耕作放棄地は、いわば“おひるね”している土地。おひるねしている土地がこれ以上増えないように、またロスになるみかんを有効に活用するために“おひるねみかん”というブランドを立ち上げ、小田原のみかん文化を守っていきたいと思いました」

みかんの甘さ、すっぱさが生きたやさしい味わいが評判を呼んで、おひるねみかんジュースは、今では年間約3万本が売れている。 

おひるねみかんの看板商品、みかんジュース。白ラベルはフードロス対策と耕作放棄防止のために近隣のみかん農家から買い取ったみかんから作ったジュース。黒ラベルは小山田さんが作っている農薬不使用のみかんジュースで、年間数千本しか作れない希少品。

エネルギーについて、農業について熱く語る小山田さん。

エネルギーも変えていかなければ

同時に小山田さんが考えていたのが、エネルギーの自給。用水路を活用した小水力発電に取り組み、エネルギーという分野で自分に何ができるのか、模索していた。取り組み始めた当初は、再生可能エネルギーはCO2を排出しないエネルギーとして環境面で必要だけれども、環境と経済は両立しない、という雰囲気だった。

「そこに起きたのが東日本大震災と原発の事故。これをきっかけに、私自身も再生可能エネルギーへ絶対にシフトしなければと確信しましたし、世の中の流れとしてもこれからは再生可能エネルギーの時代だという人が増えてきました。同時に、再生可能エネルギーを推進することが地域の活性化にもつながっていくのではないかと考えていました」

農業の活性化と再生可能エネルギー、この二つの柱で地域再生に取り組んでいく、そう小山田さんは考えていた。

ソーラーシェアリングのモデルとなる1号機

そんな小山田さんの頭に浮かんだのが、「農業と再生可能エネルギーを一緒にできないか」というアイデアだった。一見、全く異なる分野だが、いろいろと調べてみると一つ可能性のある方法が見つかった。それがソーラーシェアリングだ。

太陽光パネルの下が田んぼになっているソーラーシェアリング2号機。稲刈りも終わり、パネルの支柱を利用して稲わらが干されていた。

神奈川県のホームページによれば、ソーラーシェアリングとは「農地に支柱等を立てて、その上部に設置した太陽光パネルを使って日射量を調整し、太陽光を農業生産と発電とで共有する」こと。日本語なら営農型太陽光発電だ。2013年に農林水産省が通達を出したことで、農業を行いながら太陽光発電も行うことが可能になった。

しかし畑や田んぼの上に太陽光パネルを設置し、太陽光をシェアして活用するというこの考え方は一般にはあまり知られておらず、なかなか協力してくれる農家は見つからなかった。そんな時に力を貸してくれたのが、おひるねみかんプロジェクトに関わる農家だった。

「ソーラーシェアリングの仕組みや良さは、言葉で説明してもなかなか伝わりにくい。ソーラーパネルの下でも作物が育つことを実際に見てもらうのが一番の近道。そこで農家さんの協力を得て、小規模なモデルを作りました」

こうして設置された「小田原かなごてソーラー太陽光発電所」(通称1号機)は、およそ100坪の土地に56枚の太陽光パネルを置いた小ぶりの発電所だ。年間の総発電量はおよそ1600kWh(キロワットアワー)。発電量としては多くないが、パネルの下を畑として利用し、自然栽培でおいしいサツマイモやサトイモが収穫できた。2016年のことだ。

小山田さんが手がけたソーラーシェアリングの1号機。小田原かなごてファームのエネルギー事業は、ここから始まった。

「ソーラーシェアリングにすれば、農家は作物と電気を売ることができます。農業は天候に左右されることも多く、収入が安定しないのが難点。そこを安定的な収入が期待できるエネルギー事業で補完すれば、農業の新しい形になるはずです」

 またソーラーシェアリングは農地で行うことができるため、もし太陽光パネルを撤去することがあっても、農地としては変わらずに利用できることも農家にとって大きなメリットとなる。小田原かなごてファームの新たな挑戦が始まった。

続編は【みんなの太陽光ライフ】へ。

写真一部提供:合同会社小田原かなごてファーム

小山田大和(おやまだ やまと)
小山田大和(おやまだ やまと)
1979年神奈川県生まれ。合同会社小田原かなごてファーム代表、早稲田大学招聘研究員、行政書士。学生時代から地域の活動に関わる。東日本大震災と原発事故を経て、「持続可能な社会」を創るべく、当時勤めていた郵便局を退職。小田原かなごてファームを創設し、代表に就任した。

合同会社小田原かなごてファームHP

https://odawarakanagote-farm.com/

農家カフェSIESTA HP

https://www.siesta-odawara.com/top/