ソーラーシェアリングを通じて農業、コミュニティを再生させる取り組みが、千葉県匝瑳市で行われている。

太陽の光を“発電”と“農業”でシェア

都心から離れた空き地や山あいなどを利用して行われる大規模な太陽光発電。地面からほど近い空間一面にパネルが並ぶ様子を、一度は目にしたことがある人も多いと思われる。千葉県北東部に位置し、成田空港から車で30分ほどの距離にある匝瑳市(そうさし)で行われている太陽光発電は、一般的に見かけるその様子とはかなり異なっている。

ここ匝瑳市で取り組むのは、ソーラーシェアリング。高さ3mの位置に太陽光パネルが設置され、その下で大豆や小麦などを栽培している。使用されているのは、幅35cm、縦195cmの細身のパネル。パネル面積1に対してその2倍の空間を確保して並べているため、地面にも光が届いて農業も可能にしているのだ。

発電と同時に農業も行うソーラーシェアリング。耕作放棄地だったこの土地で現在は小麦がスクスクと育っている。

太陽の光を“発電”と“農業”でシェアするソーラーシェアリングは、「光飽和点」に着目したCHO技術研究所代表の長島彬さんによって考案された。この光飽和点とは、植物の光合成において光の強度が上がると光合成速度が速くなるが、ある強度以上では飽和状態に達してそれ以上は速くならないという理論。強すぎる直射光は植物にとって有害無益であり、光合成には適切な光量が必要であることから、細身パネルを使った遮光率35%以下の環境下で太陽光発電と農業を同時に行うことを提唱している。

太陽光パネルを敷き詰めるのではなく、パネルの2倍の空間を確保することで地面にも太陽光が届く。ちょうど森の中の木漏れ日のような状態がつくられる。

一般市民からの出資でソーラーシェアリング発電所を立ち上げ

現在匝瑳市には、ソーラーシェアリングの発電所が約20か所ある。ソーラーシェアリングの先進地として注目を浴びるようになったのは、2014年7月に設立された「市民エネルギーちば合同会社」(現在、株式会社)の功績が大きい。

千葉県匝瑳市にある「市民エネルギーちば」。事務所の屋根や駐車場の上にも太陽光パネルが設置されている。写真(2枚目)提供:市民エネルギーちば

市民エネルギーちばは、東日本大震災の原発事故を受けてエネルギーの在り方を模索していた9人が10万円ずつ出し合い、資本金90万円でスタートした。太陽光パネルのオーナーを募集して資金を集め、法人設立翌月の8月には「市民エネルギーちば匝瑳第一発電所」(発電量35.07kW/キロワット)を自分たちの手で建設し、9月末には通電を開始した。

最初のソーラーシェアリング市民発電所となった「市民エネルギーちば匝瑳第一発電所」。パネルごとにオーナー名が記載されている。

この第一発電所では、太陽の動きに合わせてパネルの向きが自動的に変わるシステムを採用。ここで発電された電力が、このシステムも動かしている。

このパネルオーナー制度は、市民エネルギーちばが多数のオーナーからパネルを借り受けて発電を行い、その電気を電力会社に売ることで得た代金をオーナーに賃料として支払うという仕組みだ。オーナーになるには太陽光パネルの購入が必要で(1枚3万5000円+消費税)、1枚から購入することができる。一般市民からの出資で運用するこの市民共同発電所に、全国から賛同者が集まったという。

「環境問題に本気で取り組んでいると理解してもらえれば、資本金90万円で会社を設立しても融資が集まり、発電所を造ることができる。90万円は、軽トラの新古車が買える金額。学生でも誰でも始められることが証明したくて、資金調達ではなくこの道を選びました」と市民エネルギーちば代表の東光弘さんは当時を振り返った。

市民エネルギーちば代表の東光弘さん。20年ほど有機農産物・エコ雑貨の流通を通じて環境問題の普及に取り組み、2011年より自然エネルギーの普及活動に専念している。

メガソーラーシェアリングで耕作放棄地を再生

18年には新たにパネルオーナーを募って2つ目の市民発電所を建設し、わずか数年で第12発電所まで建設した。この中には、アウトドアウェアとギア(道具)のメーカー「Patagonia(パタゴニア)」との共同発電所も。同社は、19年4月より東京にある国内最大規模の直営店「パタゴニア渋谷ストア」での使用電力を再生可能エネルギーに切り替え、その年間使用量の多くを匝瑳市のソーラーシェアリングで発電された電力でまかなっている(*1)。

*1「みんな電力」によるブロックチェーン技術を活用した電力取引プラットフォームで、発電源が特定された再生可能エネルギー電力を供給することができる。

2019年に通電を開始したパタゴニアとのソーラーシェアリング共同発電所。パタゴニア渋谷店のスタッフが太陽光パネルの取り付けと畑の作業を体験した。

さらに、これらのパネルオーナーや企業との市民発電所建設と並行して、メガソーラー発電所の建設も。市民エネルギーちばの100%子会社である「匝瑳ソーラーシェアリング合同会社」は、17年にソーラーシェアリングとしては当時日本最大級の発電量1MW(メガワット)の「匝瑳メガソーラーシェアリング第一発電所」を建設した。

匝瑳メガソーラーシェアリング第一発電所。かつてタバコ栽培が行われていたが、15年前から耕作放棄地に。現在は、年間約5000万円もの売電収入と大豆や小麦の収穫物を得られる土地に生まれ変わった。写真提供:市民エネルギーちば

「城南信用金庫」からの融資と再生可能エネルギー事業を行う「SBIエナジー」(エスビーアイエナジー)の社債を中心に、発電所の導入費用の約3億円を調達。3万2000㎡もの広大な土地が再生され、農薬や化学肥料を使わずに大豆や麦が栽培されている。

メガソーラーシェアリングを案内してくれた東さん。環境問題に対して本気で取り組む思いが伝わり、無条件で融資を受けることができたという。

メガソーラーシェアリング発電所に設置されていた、つくられた電気を直流から交流に変換するパワーコンディショナー。写真上の機械の上に取り付けた遮光板は、地元の間伐材を使い、柿渋を塗ったもの。写真下の表示パネルには、その日の発電量が示されていた。

これまでの市民発電所の場合と比べて耕作面積が一気に増え、ここでの耕作を匝瑳市内で有機農業に取り組む若手農家中心に設立された農業生産法人「Three little birds」(スリー・リトル・バーズ)に委託している。彼らに支払われる年間350万円の委託料は、地域内のソーラーシェアリングで得た売電利益から拠出。発電、農地の再生に加えて、農家の収入安定にもつながる取り組みになっているのだ。

耕作が放棄されてやぶ化した土地が点在している。ソーラーシェアリングで有機農業を行うことで、キジやノスリなどの猛禽類(もうきんるい)が以前に増して姿を見せるようになってきたそうだ。

写真提供:市民エネルギーちば

市民エネルギーちば
https://www.energy-chiba.com
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